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生物には不可逆的な時間の流れがある 『生物と無生物のあいだ』

      2017/09/16

生物と無生物のあいだ / 福岡伸一 / 講談社現代新書
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
デカルトが唱えて以来、生物・生命は「機械論」で解釈されることが主流となった。生物は複雑な機械であり、その仕組みは物理的に理解できるという捉え方だ。これに対立する説に「生気論」があるが極めて分が悪い。「機械論」しいては「物理主義」に対抗しようというのだから反物理、似非科学にならざるを得ず、とても勝ち目はない。

当然、現代の生物学、医学に関する分野の科学者たちは「機械論」に立ち、生物・生命の仕組みを解き明かそうと分子原子のスケールで研究を進めてきた。すなわち、生物を分子レベルに分解し理解することで、決定論的に全体を記述しようとしてきたわけだ。その試みは多大な成果を上げ、いまや「工学」領域すら形成されている。

ところがである、生命のメカニズムが次々と微視的に解明されていくにつれ、どうも生物は機械ではなさそうだ、少なくとも一般的にイメージされる機械ではない、という理解が浮上してきているらしい。
『生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書』は、その点を最先端の分子生物学者が解説してくれる一冊だ。

冒頭で、テーマとなる問題が提示される。

そもそも、生命とは何か、皆さんは定義できますか?

20世紀の生命科学が到達したひとつの答えは「自己複製を行なうシステム」だった。そして、分子生物学的な生命観に立てば、生命体とはミクロなパーツからなる分子機械に過ぎないというのが機械的生命観の究極的な姿だ。

著者らは膵臓内にある消化酵素分泌に重要な役割を果たすタンパク質GP2を発見し、そのGP2遺伝子を取り除いたノックアウトマウスで異変を検証する実験を行なう。そこで著者が遭遇したものは驚きと落胆だった。ノックアウトマウスは生命にきわめて重要と考えていたタンパク質を持たないはずにもかかわらず、マウスには何ら異常が認められなかったのだ。この現象をどう説明するか、著者が提示した仮説が「動的平衡」なのである。

ある場所とあるタイミングで作り出されるはずのピースが一種類、出現しなければどのような事態が起こるだろうか。動的な平衡状態は、その欠落をできるだけ埋めるようにその平衡点を移動し、調節を行おうとするだろう。そのような緩衝能が、動的平衡というシステムの本質だからである。

最後に冒頭の問いに対する著者の答えが述べられる。

機械には時間がない。原理的にはどの部分からでも作ることができ、完成した後からでも部品を抜き取ったり、交換することができる。そこには二度とやり直すことのできない一回性というものがない。機械の内部には、折りたたまれて開くことのできない時間というものがない。
生物には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度折りたたんだら二度と解くことのできないものとして生物はある。生物とはどのようなものかと問われれば、そう答えることができる。

生物と無生物との境界は何か、本書はDNAの発見、科学者の苦悩など様々なエピソードをまじえて語られる刺激的な読み物だ。

 - 自然科学・応用科学, 読書