ポケットに銃でもはいっているの、それとも、わたしに会えてうれしいのかしら? 『E・S・ガードナーへの手紙』
2017/09/16
E・S・ガードナーへの手紙 / スーザン・カンデル / 創元推理文庫
『E・S・ガードナーへの手紙/スーザン・カンデル/創元推理文庫』は、40代半ばのおばさん素人探偵がおよそ半世紀前の殺人事件を解決してしまう、気楽に読めるミステリだ。
このおばさん、名前はシシー、ウエストハリウッドに住む伝記作家。ヴィンテージファッションをこよなく愛し、なかなかの美人らしく、結構もてる。
本作では、シシーはE・S・ガードナーの伝記に取り組むのだが、資料を調べていたら気になる手紙を発見する。ガードナーに宛てたその手紙には妻殺しの冤罪をはらして欲しいという依頼が綴られていた。はたして本当に冤罪なのか?真犯人は誰なのか?
シシーはその手紙に差出人(刑務所に収監されている)と面会するわ、当時の事件関係者を調査するわと私立探偵ばりの行動をとる。もつれた人間関係はさらに時間をさかのぼり、1920年代の出来事に行き当たる。
事件、謎解きについては後述するとして、ヴィンテージファッション、ガーデニング、気のきいた食事などの薀蓄が散りばめられ、それらに関心のある読者は楽しめるのではないか。私はガーデニングに少し興味があるので、その辺は面白かったですがね。
周りを取り巻く登場人物たちもまずまず魅力的に書かれていて、私としてはシシーの元彼、刑事のピーター・ガンビーノがかっこよくて気に入った。
(シシーの親友のラエルは)息子のトミーが彼の友達と一緒にマリファナを吸っているところを見てしまった。友達を家に帰すとラエルは、トミーに手錠をかけてくれとガンビーノをせっついた。身をもってことの善悪をわからせたかったのだろう。だが、ガンビーノはそうはせず、代わりにトミーを長い散歩に連れ出した。ふたりがどんな話をしたのか知らないが、その日以来、トミーは面倒をおこしていない。
さて、肝心のミステリとしてはどうか。ミステリの巨匠を背景にあしらう設定で「ミステリファン」の関心を引いているものの、「犯人はこいつだな」と思った人物がちゃんと犯人になっており、それなりによく書き込まれた2時間サスペンスの脚本のよう。おばさんが繰り広げるてんやわんやを楽しむ、といったところか。
ちなみに、この記事のタイトルは、わたしが最も気に入ったシシーの台詞。
(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)