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工学は妥協の技術である 『ゼムクリップから技術の世界が見える』

      2017/09/16

ゼムクリップから技術の世界が見える-アイデアが形になるまで世の中には、技術、工学が完璧なものだと思い込んでいる人が多い。工業製品に関して何か事故が起こると、鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立て、糾弾するマスコミがその典型だ。そんな誤解を解くためにも、『ゼムクリップから技術の世界が見える-アイデアが形になるまで/ヘンリー・ペトロスキー/朝日選書』はぜひとも広く読まれるべき本だ。原題は"INVENTION BY DESIGN"だが、訳題には「技術」の言葉が入れられていて、かえってよく本書の中身を表しているように思う。

本書ではゼムクリップ、鉛筆、アルミ缶から飛行機、橋、高層ビルに至る九つの工業製品の開発事例が語られている。身近な対象が多いので取っ付きやすく、トリビアも満載だ。あの単純なゼムクリップの特許が現在も出願され続けている、アルミ缶開発の最大の目標は使用するアルミ量を減らすこと、ビル高層化のネックはエレベータ(人を上下に移動させる装置)、など言われてみてなるほどもっともと気づかされる。

さて、最初の話に戻って、著者が工学とは何かを語っているフレーズを紹介しておこう。

工学は妥協の技術であり、現実世界にはつねに改善の余地がある。しかし、工業技術は実用の技術でもある。技術者は、ある時点で設計に見切りをつけて製造や建設にとりかからなければならないことをわきまえている。

すべてのデザインには複数の相容れない目的がからんでいて、したがって妥協が必要だから、最良のデザインはつねに最良の妥協案を提供する。

工学に携わる人なら自然と身に付けているこの感覚。それを親しみやすい物語で伝えられる著者はさすがだ。

 - 自然科学・応用科学, 読書