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なんともほほえましい登場人物たちに好感 『検死審問ふたたび』

      2017/09/16

ヒャッヒヤッ、いいですねえ、『検死審問ふたたび』。本作はその邦題どおり『検死審問』の続編。前作がかなり気に入ったので今回も期待していたのだが、裏切られることはなかった。それどころか、より私好みにレベルアップしたような。

なにをそんなに褒めているのかというと、そのほのぼのした語り口、ほほえましい登場人物たち。
本書で探偵役を務める検死官スローカムは、理屈っぽく鮮やかな推理を展開する一方で、振る舞いはなんとも情があって、素敵な人物なのである。終盤、謎解きの場面で、犯人を前にしてスローカムの情が遺憾なく発揮される。読んでるこっちもうれしくなってくる。ここは読みどころだ。
今回陪審員長に抜擢されたイングリスの奮闘もほほえましい。融通の利かない堅物のイングリス、公判記録にこれでもかと注を記す姿を想像すると、可愛げがあって憎めない。
私はこんなニコニコしながら読めるミステリが大好きなのだ。ミステリって楽しんで読む作り話だと思っていますから、殺伐とした話を眉間に皺寄せながら読むなんて願い下げなのだ。

さて、前回の『検死審問』で述べたが、証人の供述で語られる台詞がいい。本作でもそれは健在で、不動産屋のデュラも、菌類学者のメイザーも、消防団長のブルーイットも、みんないい話を語ってくれる(もちろんそこに推理の複線が仕込まれているわけだが)。今回もそんな台詞を二つほど紹介しておこう。ジェロス・デュラの元気になる一言だ。

 ああ、そうとも、仕事は上向きだ!
毎日あらゆる面で、仕事はどんどんよくなっていくとも!
毎朝ひげを剃るときにそう自分に言って、きみたちに会うたびに繰り返すんだよ。

 こんな女を妻にした男は幸せ者だよ。夫を思い、希望を尊重して、好きにさせてやるんだから。それで言ったんだ。「ご主人はお幸せですね
「もっと幸せになれるはずですわ」
でも、そうじゃない人間なんているのか?いるとしたら、それはだれもが思いつく、最高に幸せな人々―国王や皇帝や映画スターや億万長者ぐらいのものだろうな。

ここまで書いて、まだ内容を紹介していなかった。こんなストーリーです。

リー・スローカム検死官が、ふたたび検死審問をおこなうことになった。今回の案件は、火事に巻きこまれて焼死したとおぼしき作家ティンズリー氏の一件。念願の陪審長に抜擢され、大いに張り切るうるさがたのイングリス氏は、活発に意見を述べ、審問記録に注釈を加え、さらには実地検分に出かける気合いの入れよう。はたして、いかなる評決が下るのか。傑作『検死審問』の続編登場。

― 東京創元社web

『検死審問』、『検死審問ふたたび』の2作を読んで、パーシヴァル・ワイルドのお話がとても気に入った。こうなると、残り4作(ワイルドのミステリは6作品)も読みたくなるというのが人情だね。連作短篇集『悪党どものお楽しみ』、『探偵術教えます』はすでに邦訳されているので早速読んでみよう(ちょっと値段がお高いが)。あと未訳の『Mystery Week-End』、『Design for Murder』の邦訳、東京創元社で面倒見てくれないかなあ。

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)

検死審問ふたたび/パーシヴァル・ワイルド(越前敏弥訳)/創元推理文庫
検死審問ふたたび (創元推理文庫)

 - 小説, 読書