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これ必読でしょう 『単純な脳、複雑な「私」』

      2017/09/16

優れた書き手による科学読み物は至極の楽しみを与えてくれる。最近紹介した物では『宇宙創成』がその王座だが、本書『単純な脳、複雑な「私」/池谷裕二/朝日新聞社』もたまらない一冊。宇宙も果てしないが脳も果てしない。読みはじめから読み終わりまで驚きの連続である。ちょっとやそっとのミステリでは、これほどまでに読者を驚かせることはできない。こういう本を読むたびに、科学って凄いよなあとい改めて実感する。

『進化しすぎた脳』の続編のような位置づけになる本書は、前書が脳内の化学反応にページを割いていたのに対し、脳のシステム、創発に力点が置かれている。キーワードは「ゆらぎ」と「ノイズ」。シナプスの出力はオンとオフしかない。デジタルだ。しかしこの単純なオンオフ回路から最終的に現れる出力が複雑な人間の行動、感情を決めて行く。一義的に決まるのではない。時と場合で違う答えが返って来る。単純な回路に「ノイズ」が乗ることで「ゆらぎ」が発生する。すなわち創発。緻密に計算しても絶対に届かない解を瞬時にして求める脳。顕微鏡で覗けばのぞくほど単純なのに、マクロではあまりにも複雑な脳。非線形科学がもっともっと進歩すれば、脳の中身が数式で書けるようになったりして。それにしても本書のタイトルは名タイトルだね。

著者は随所で、自分たちは自由意志で行動しているのか、それとも決定論的に行動しているのか、の問いを投げかける。その答えとして「自由否定」を提案しつつ、さらにかっこいい答えを用意している。

 少なくとも言えるのは、僕らは自分が思っているほど自由ではないってことだ。自由だと勘違いしているだけ、という部分はかなりある。
でも、「自由」は感じるものであって、本当の意味で「自由」である必要はない。だから、僕らは「自由意志」をすでに感じて生きているんだから、もうそれでいいじゃないか、それ以上僕らは何を欲するんだ、という言い方もできるね。

引用されているペーパーの最新は2008年の物。まさに「今」を生きている私たちが教われる最先端の脳科学が、本書にはぎっしり詰まっている。なんという贅沢。もう必読でしょ。

単純な脳、複雑な「私」 /池谷裕二 / ブルーバックス
単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

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