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人類の到達点に触れてみよう! 『理性の限界』

      2017/09/16

こんなに面白い哲学書があっていいのだろうか。『理性の限界/高橋昌一郎/講談社現代新書』は、人類の理性が到達した三つの「限界」を、口当たりよく一冊にまとめ込んだ快著だ。

「あらゆる問題を理性で解決することは可能なのだろうか」をテーマに、種々多彩な登場人物が集まってディスカッションを繰り広げる。「選択の限界」「科学の限界」「知識の限界」の3章で、「アロウの不可能性定理」「ハイゼンベルグの不確定性原理」「ゲーデルの不完全性定理」に導かれていく。それぞれ本当に理解するなんてできっこない理論だが、日常生活をとおして噛み砕いて解説してくれるので、それぞれの雰囲気をつかめたような気になるからすごい。読みやすさに対する著者の工夫はかなりのもので、登場人物には会社員や学生といったごく普通の人がベースとして置いているし、カント主義者なんて道化も配置されていて、笑いながら読める。

三つの定理(原理)は、「いくら論理的に追求してもわからないことがあるんだよ」ということを証明してしまった。最初の問いに対して、「あらゆる問題を理性で解決することは不可能」というのがその答えだ(「不確定性原理」はちょっと意味合いが違うような気もするのだが)。でもこれはとことん突き詰めたときの話。理性で解決できる問題はごまんとあるのだから、理性を否定してはいけない。その上、理性は理性の限界を導けるのだから。しかし一方で、その限界を知っておくことは損にはならないだろう。特に「不可能性定理」はかなり身近な定理だ。

完全に民主的な社会的決定方式が存在しないことは、すでに数学的に証明されているのです。これが「アロウの不可能性定理」と呼ばれる成果でして……。

多数決や選挙なんて投票者の総意でないことをよくよく知っておくべきだと思う。

三つの限界周辺の話題も豊富に紹介されている。コンドルセのパラドックス、ボルダのパラドックス、パウロスの全員当選モデル、囚人のジレンマ、TFT、ミニマックス均衡、ラプラスの悪魔、シュレディンガーの猫、二重スリット実験、ぬきうちテスト、スクリブンの卵、テューリング・マシン、などなど。一度はきいたことがあるものが多いが、これだけ集められると好奇心をくすぐられる。

「アロウの不可能性定理」が1951年、「ハイゼンベルグの不確定性原理」が1927年、「ゲーデルの不完全性定理」1931年、20世紀は理性のある到達点に達した世紀と言えそうだ。本書で人類の到達点に触れてみよう!

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)
理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

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