リベラル派の敗北 『ルポ貧困大国アメリカⅡ』
2017/09/16
『ルポ貧困大国アメリカ』から2年、続編『ルポ貧困大国アメリカⅡ/堤未果/岩波新書』の登場です。今回もアメリカの貧困・格差の現状を詳しく紹介し、それらを引き起こした魔の手を指摘します。教育、年金・社会保障、医療、刑務所と、前著とラップするところは多いです。しかし決定的に違うのは、この間にオバマ大統領が誕生したこと。前作で共和党、ブッシュ大統領を徹底的に悪玉にしたわけですが、そのブッシュが退き、CHANGEを唱える民主党オバマを迎えてどう変わったのか。本書の読みどころはその1点です。
本題に入る前に、今回語られる惨状は前回と同様壮絶なものです。中でも年金問題は身につまされる思いで読まざるを得ませんでした。老後の頼みにしていた年金が消えていく、それを保証しようとするならば若い世代は立ち行かなくなる。どこかの航空会社だけの問題ではありません。我が国でも年金制度改革は急務です。しかし政治は動かない。動けない。自分の身は自分で守る、今のところ私が思いつく手だてはこれしかありません。
さて、オバマ大統領です。戦争を停止してくれる、医療制度を改革してくれる、その他多くの期待を持ってアメリカ国民はオバマを大統領に選びました。その結果どうなったか。残念ながら現実はオバマ政権になって変わっていません。いやむしろ悪くなった。前著の根幹であった「貧困←過度の市場主義←共和党政策」が成り立たなかったんですね。そこで著者は矛先を微調整しています。オバマもブッシュも同じ穴のむじなだと。オバマも業界から多額の政治資金を受け取っており、「政治家と業界との癒着主義(コーポラティズム)」が諸悪の根源だと。
このような悪者を仕立てる古典的な手法で良いのか。私にはよくわかりません。権力に、そして権力にすり寄る者に富が集まることはあらゆる時代あらゆる社会で普遍的な現象のように思えます。それを解消するシステムはあるのでしょうか。