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代替医療信者には効果はあるか 『代替医療のトリック』

      2017/09/16

代替医療のトリック / サイモン・シン、エツァート・エルンスト(青木薫 訳) / 新潮社
代替医療のトリック

待ちに待ったサイモン・シンの新刊(の割には少々読むのが遅れたけれど)はチャールズ皇太子に捧げられた『代替医療のトリック/サイモン・シン、エツァート・エルンスト(青木薫 訳)/新潮社』、言いたいことはよーくわかる。私もささやかながら《科学的根拠にもとづく医療》を指示する。だからと言って、本書の主張が代替医療支持者にすんなり受け入れられるかどうか。

本書は『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論(宇宙創成)』と立て続けにスゴ本を著したサイモン・シンの4作目。今回のテーマは代替医療(現代医学に基づく通常医療の代わりに用いられる医療)は、本当に治癒効果があるのだろうか、である。ここでメインに取り上げられるのは、鍼、ホメオパシー、カイロプラクティックの四つ。いつものシン同様、歴史を遡りながら現在に、そして真相に肉薄する。

結論をあっさり言ってしまうと二つある。《科学的根拠にもとづく医療》を拠り所にすべきだということ。そして、科学的な二重盲検法によればこれらの代替医療には治療効果はないということ。もう少し正確に言うと、鍼、カイロプラクティックには限られた症状に対してはわずかな効果がある。ホメオパシーは全く意味がない。いずれにしてもプラセボ効果を上回ることはない。

私は科学信者だから、本書の主張を聴く耳を持っているし、しごく当然だと納得する。《科学的根拠にもとづく医療》が確立されたのが20世紀半ばということに驚きさえする(人の命にかかわることだから難しいことはわかる)。ただ、代替医療信者は理解するどころか反発を強めるのではないか。科学を振りかざせば振りかざすほど、似非科学はそれに対抗するのが常だと思うのだ。代替医療信者に対し、科学的アプローチは通用しないはず。科学を信じない人に科学的アプローチを適用すること自体矛盾している。本当に彼らを宗旨替えさせたければ、なにか異なった手段が必要だろう。彼らが、通常医療ではなく敢えてなぜ代替医療を選ぶのか、その際どのような心理的作用が働いているのか、それが明らかになれば、良い手段が見つかるに違いない。似非科学と共通するこの辺の問題、勉強してみる価値ありだな。

代替医療の大層な信奉者で、自分の王族としての立場を利用してこの普及を進めようとするチャールズに捧げられたこの著作は、彼に何を訴えようとするのか。本書の主張を引用して繰り返すと、

もしも代替医療に高い水準が課されなければ、ホメオパシー、鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法をはじめとする代替医療のセラピストたちは、社会のなかでもっとも切実に医療を必要としている弱い立場の人たちを食い物にし、金を搾り取り、ニセの希望を持たせ、健康を損なう危険にさらし続けることになるだろう。

ということだ。皇太子の思想、言動に、サイモン・シンは我慢ならなかったということだ。彼に変わって欲しい。私もそう思う。しかしその思いが彼に伝わるかは、甚だ疑問なのだ。

代替医療の真相を知るにはこれ1冊で充分だろう。綿密に誠実にその姿をあぶりだすアプローチには敬服するし、読みごたえもある。是非一読をお勧めする。

ただ余計なことだけれど、サイモン・シンには高い高い期待を寄せているので注文も残った。これまでのシンは、歴史的事実を束ね、そこから感動につながる明るい日差しを差し込ませてくれた。なのに本作で代替医療の糾弾に終始する態度は、どちらかというと気を滅入らせる。清々しさがなかったのが唯一残念だ。

 - 自然科学・応用科学, 読書