この清々しさ、存分に味わわれよ『のぼうの城』
2017/09/16
天下統一に向け豊臣秀吉は北条小田原攻めに立ち上がる。圧倒的な豊臣軍に対する北条勢の敗戦は必至。その支城「忍城」も、大将石田三成率いる大軍勢に取り囲まれ、守る城方は降ることを決意していた。
しかし一人の男が戦いぬくことを表意した。三成勢二万、迎え撃つ忍城方わずか五百。男はこの無謀と思える戦いをなぜ決意したのか。どう戦おうとするのか。
その男、成田長親と彼を取り巻く戦国武将たちを魅力たっぷりに描いた『のぼうの城/和田竜/小学館文庫』は、なんとも清々しい作品だった。
二万対五百が繰り広げる攻防戦の行方は実際読んでもらうとして、ここでは本書の魅力のポイントを2点挙げておこうと思う。
一つめは登場するキャラクタの魅力的な造形だ。主人公成田長親はもちろんその家臣たち正木丹波守、柴崎和泉守、酒巻靱負がことごとくかっこいい。彼らの振舞も言葉も。
三成勢二万に取り囲まれた状況で、長親の発する一言は出色だ。
「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」
……
「それが世の習いと申すなら、このわしは許さん」
そして長親の意を受け入れて戦を決断した丹波守は、降伏を迫る相手方の使者にこう言い放つ。
「坂東武者の槍の味、存分に味わわれよ」
しびれた。
長親の父親成田泰季も渋ければ、敵役であるはずの石田三成も大谷吉継も憎いくらい男っぷりが良い。ページをめくる度に、彼らの武者ぶりがほとばしってくる。
もう一つ、本書はシナリオライティングの教本をきっちりと踏まえたと思わせる作品だ。上のキャラクタの他狂言回しも配置し、メインテーマである戦闘、それに親子、男女のサブテーマが挿入され、葛藤が次々と積み重なって行く。ハリウッド的シナリオの善し悪しは置いておいて、よくよく練られた構成が面白くないはずがない。
戦国の戦いにどっぷり浸りつつ、「のぼう様」のえも言われぬ魅力に触れてみる。愉しさを満喫できた一冊だ。