すぐびん

山歩き、読書や工作、おじさんの遊んでいる様子

検索

時空を悠々と超えちゃったね 『テルマエ・ロマエ I, II』

      2017/09/16

古代ローマを日本に広く知らしめるといえば塩野七生女史の独壇場だったけれど、その一画を脅かす存在がコミック界から現れた。『テルマエ・ロマエ』がそれだ。最近『III』が発売されたが発売されたところで、まずは『テルマエ・ロマエ I, II/ヤマザキマリ/BEAM COMICS』から入ってみた。

「テルマエ・ロマエ」とは「ローマの浴場」の意。物語の舞台はハドリアヌス帝時代(130年代)のローマ帝国、『ローマ人の物語』でいえば『賢帝の世紀』にあたります。ハドリアヌス帝に仕える浴槽設計技師ルシウス・モデストゥスは、水中に没するたびになぜか現代の日本に紛れ込むこととなるんですね。そして目にした日本の銭湯・温泉ならではの文化をローマへ持ち帰り、次々と大人気の浴場をローマに産み出していきます。

この設定だけでも参ったと言わざるをえないのですが、奇抜さだけが売り物かというと、なんのなんの。深みがあります。その深みを出しているのには、次の三つの理由がありそうです。

まずは、日本の銭湯・温泉文化を改めて見直させられること。風呂場の富士山の絵、風呂上りのフルーツ牛乳、温泉玉子、さらには入浴マナーも、外から見ればとても幸せを感じさせる文化なんですね。それらに当たり前のように接してきた日本人には、そのありがたみがわからない。そして今ではそれらを捨て去りつつある。何の気なしに享受している日本的なものも結構いいもんなんですよと気づかせてくれる。懐古の情をくすぐるんですね。うまいです。

次に、ローマ帝国を身近に感じられるようになること。なかなかイメージが湧きにくい2000年も前のローマをうまーく表現しています。一話ごとにローマに関するコラムが収められているのも、じっくり読めばホホーと新しい発見があります。

最後に、これが僕としては一番心に響くことなのですが、物語のベースにルシウスのローマを想う気持ちが置かれていること。ルシウスはとにかくローマの人々を喜ばせたい。ハドリアヌス帝からの指示もあるんですが、ルシウスが次々と新しい風呂を作り出す情熱の源は人々を幸せにしたいというところにあるんですね。だから日本の銭湯文化を貪欲に取り込んでいく。中でも第2巻の第9話では、衰退していくローマの風呂業界を立て直す奇策を講じるのですが、これが感動的。ついついルシウスを応援したくなっちゃいます。

長くイタリアで暮らされ、イタリア人の夫を持つ作者ならではの作品でしょう。マンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞作品。ただしそれなりに灰汁が強いので、誰でも受け入れられるとは言い難いですけどね。

テルマエ・ロマエ I/ヤマザキマリ/BEAM COMICS
テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
テルマエ・ロマエ II/ヤマザキマリ/BEAM COMICS
テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)

 - 小説, 読書