少女が巻き込まれたタイムトラベル 『きみに出会うとき』
2017/09/16
実のところ、僕はこっそりと児童文学に興味があります。なので、2010年のニューベリー賞を受賞した『きみに出会うとき/レベッカ・ステッド(ないとうふみこ 訳)/東京創元社』は是非ともチェックしておきたい作品なのです。
時は1978年、ニューヨークに住む12歳の少女メリンダは、メモに書かれた不思議なメッセージを受け取るようになります。これから起こることなどが書かれたメモは未来から送られてきたものなのか?謎のメッセージに困惑しつつ、家族や友達との生活をとおしてメリンダが少しずつ成長してくヤングアダルト作品です。
枠組みとしてはタイムトラベル物に分類されるのでしょうが、そこをSFのようにギリギリと追求してはいません。案外サラッと流していて、プチ・タイムトラベル物と言えるでしょうか。
その代わりに、中に書き込まれているのは12歳の女の子の日常の姿です。友達との仲違いや仲直り、ボーイフレンド、アルバイト、そして家族。社会背景もチラチラっと垣間見れて、ミランダの母親はシングルマザーだし、ニューヨークは物騒なところだし、貧富の差やいじめがあるし、アフリカンアメリカンへの差別もあります。でも総じて微笑ましいお話に仕上がっています。逆に言えば、登場人物たちがちょっといい人ばかりなんじゃないの、とひねたおじさんは思ったりもするのですが。
特に僕の印象に残ったのは、自分の気持ちを伝えることの大切さかな。著者がこの作品に盛り込んだメッセージの一つは、勇気が要るけど自分の気持ちを伝えるといいよ、コミュニケーションをとってみると意外と仲良くなれるもんだよ、ってことだと受け取りました。
さて、とは言え本作品はプチ・タイムトラベル物。後半かなり話は盛り上がってきます。そしてエンディングは児童文学らしからぬ、といったところでしょうか。意表を突かれたなあ。
物語を楽しむのはもちろん、今の児童文学を知る上でも僕にはいい本でした。
本書は「本が好き!」さんを通じて献本いただきました。ありがとうございました。