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凄惨、なのに清々しくて熱いゾ 『卵をめぐる祖父の戦争』

      2017/09/16

卵をめぐる祖父の戦争 / デイヴィッド・ベニオフ(田口俊樹 訳) / ハヤカワ・ポケット・ミステリ
卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

「恐怖に支配されたらあかん」、それが『卵をめぐる祖父の戦争/デイヴィッド・ベニオフ(田口俊樹 訳)/ハヤカワ・ポケット・ミステリ』の読後感であり、この小説から教えられたこと。

ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している

で始まるこの作品は、1942年、レニングラード包囲戦さなかの1週間を切り取った二人の青年の冒険譚。レニングラードに暮らす17歳のレフは、死んだドイツ兵のナイフを盗んだことで刑務所<十字>に投獄される。生きては出られない<十字>。しかし、そこで出会ったた脱走兵コーリャとともに、1ダースの卵を持って帰れば釈放してやると軍の大佐から命令される。ドイツ軍に包囲された街にろくな食料はなく、卵なんて手に入るはずもないのに。そして二人は卵を探す冒険へと踏み出す。

当時のレニングラードは壮絶を極める街です。ドイツ兵の死体が空から降ってくる、人食い夫婦がすりつぶした人肉でソーセージを作り売る、砲撃によりビルは一夜にして消失し、飢えと寒さが次々と人の命を奪っていく。希望なんてどこにも見当たらない。

そんな壮絶な状況が次々と描かれるにもかかわらず、読者は救われるんですね。生きるために卵を探し求める二人の若者、レフとコーリャがほんのりと明るく、清々しいから。特にコーリャがえも言われぬ素敵さがある。女とやることしか頭にないと言わんばかりの卑猥で淫猥な会話を連発する一方で、知性を備えた青年。絶体絶命の境地に陥ろうとも知恵と勇気で未知を切り開く青年。彼の輝く姿を見ていると、冒頭の「恐怖に支配されたらあかん」てことをつくづく思い知らされたわけです。

ページを捲るたびに、なんと心地良い物語が展開されることか。読み終えるのがもったいないと思う冒険小説に久々に出会うことができました。やっぱポケミスはいい。

最後に、読み終えたら、もう一度最初に戻ってプロローグを読みなおすことになりますよ、必ず。

 - 小説, 読書