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ハリー、なんと愛おしい奴『二流小説家』

      2017/09/16

二流小説家 / デイヴィッド・ゴードン(青木千鶴 訳) /ハヤカワ・ミステリ
二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

これはむちゃくちゃ面白い。快作。僕が求めるエンタテイメントという壺にピシャリとはまった。

2011年の「このミス」「週刊文春」「ミス読み」それぞれ海外部門の1位に輝いた『二流小説家/デイヴィッド・ゴードン(青木千鶴 訳)/ハヤカワ・ミステリ』、まずはハヤカワ・オンラインから借りてイントロを紹介しておく。

ハリーは冴えない中年作家。シリーズ物のミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で何とか食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末。だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ。ベストセラー作家になり周囲を見返すために、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かうのだが……。
ーハヤカワ・オンライン

この後ハリーは、告白本を書かせてやる代わりに、自分のためだけのポルノ小説を書けと殺人鬼から条件をつけられる。さあ、このけったいな状況設定からしてとんでいる。巻末の青木氏のあとがきによれば、著者がポルノ雑誌の編集部に勤めていた際、囚人から寄せられてきた数多くの手紙から着想を得たとのこと。なるほど。こりゃなかなかできない体験だ。

そして、なんといってもハリーの言動がとんでもなく愉快なのである。多くのペンネームを使って様々なシリーズ物を書き分けているのだが、作風ごとにマッチしたプロフィール写真を、ゲイの友人や、自分の母親まで駆りだしてくる。長年連れ添った彼女に別れを告げられる場面なんか笑わずにはいられない。家庭教師の教え子でありながらビジネスパートナーに収まっている女子高生のクレアに手玉に取られる不甲斐なさは微笑ましいばかり。ハリー、君はなんて魅力的なんだ。
彼を取り巻く女性陣、先のクレア、被害者の妹でストリッパーのダニエラ、弁護士助手でハリーの小説の熱狂的なファンであるテレサも、それはそれは魅力的なのだが、この魅力はハリーあってこそだと思うんだな。男がだめなら女が引き立つってところだろう。

さて、本書はミステリだから事件が起きないといけないのだが、物語が進んでもそれがなかなか起きない。もう来るか、もう来るかとやきもきしていたら、とびっきり凄惨な場面が待ち受けていた。そこからハリーの捜査が始まり、ミステリファンの興味をくすぐるような台詞がたんまり盛り込まれている。例えば、

「探偵っていうのは、現場を訪れて、あたりを見てまわって、そこから手がかりを探すものでしょ。何かを見つけるまで、自分が何を探しているかなんてわかるはずもないわ」
「コロンボには最初からわかっているみたいだ」

とか、

「リュウ・アーチャーやフィリップ・マーロウみたいなことにならなきゃいいが」
「どういうこと?」ダニエラが訊いてきた。
「誰かに拉致されるか叩きのめされるまで、悪党どものまわりをひたすらにうろちょろするってことさ。……」

とか。

謎解きはめまぐるしく展開し、最後に落ちまでついてくる(この落ちはなんとなく読めたけどね)。いやー、たっぷり楽しめた。「三冠達成!」なんて騒がれる前に読んでおきたかったなあ。

 - 小説, 読書