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『水曜日は狐の書評』は小振り、でも濃い

      2017/09/16

水曜日は狐の書評 ―日刊ゲンダイ匿名コラム / 狐 / ちくま文庫
水曜日は狐の書評 ―日刊ゲンダイ匿名コラム

発行部数168万部を誇るサラリーマン向けタブロイド「日刊ゲンダイ」。そこに1981年2月から2003年7月までの22年間もの長期にわたって連載されていた名物書評コラムがあった。題して<狐の書評>。本書は、その中から207編(1999.5.19~2003.7.30)を収録した読み応えある書評集。風竜胆さんが、「書評ブロガーにとっても、どのように書評を書けばよいかについての指針を与えてくれることだろう」と紹介されていたのを目にして手に取ってみた。端くれとはいえ本ブログを運営しているからには、本の紹介のしかたはとても気になるわけで。

なんとも素敵な書評である。一編々々が約800字の短評にもかかわらず、その本にまつわる逸話がたんと盛り込まれていて、一冊の向こうに広くて深ーいものが見えてくるのだ。例えばのっけから、『映画は語る(淀川長治・山田宏一)』の出だしはこうだ。

ウィリアム・ワイラー監督の映画「孔雀夫人」(一九三六年)が先年、ホール上映されたり、ビデオになって発売されたりしたことは、映画についての書き手の少なくとも二人を大喜びさせた。

一人は書評本の著者山田宏一で、これは良として、もう一人は蓮實重彦。「孔雀夫人」をキーワードに蓮見を引き出し、あっさり「二人」と書くなんて平伏しちゃう。

こんな書評を読み進めていくと、書評家にもいろんなタイプがあるのだなと改めて気づく。たとえば松岡正剛氏は構造物を築く建築家、都市設計者のような趣がある。本書の著者、狐こと山村修氏は、さしずめ書評界のシェフ、パティシエってところ。一冊一冊の素材を活かしつつ丁寧な下味をつけ、様々な工夫をこらしたソースをかけて目の前に出してくれる。本書に限れば手軽にパクっと味わえるスイーツだな。堪能した。

 - 社会, 読書