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『宇宙が始まる前には何があったのか?』何も無かった

      2017/09/16

宇宙が始まる前には何があったのか? / ローレンス・クラウス(青木薫 訳) / 文藝春秋
宇宙が始まる前には何があったのか?

このタイトルは、人類にとって究極の問いだな。いかにしてこの宇宙は誕生したのか。言い方を変えれば「なぜ何もないのではなく何かがあるのか」。この問いに対して、絶対に真実を確かめることはできないけれど、こうあるはずだという答えがどうやらわかってきたらしい。原題がその答えとなっている。『A Universe From Nothing』、そう私たちが住むこの宇宙は無、空間も時間もない状態から現れたらしいのである。

無から何かが、それも宇宙ができるなんてバカげてる。なまじ科学をかじった人はそう考える。エネルギー保存則はどうなるんだ、何も無い状態からエネルギーが生じるはずがない、と。しかしここ数十年で劇的な進歩を遂げた宇宙論の最前線では、そんな生半可な常識は通用しないらしい。相対性理論と量子論と観測結果を総合すれば、ゆらぎと非対称性のせいで無からエネルギーが、要するに宇宙が生まれることはあり得ることだそうで、あり得ることは起こり得ることなのだ。相対性理論も量子論もちんぷんかんのぼくには、著者が解説してくれる宇宙論を理解するのはあまりにも難しいけれど、最高の頭脳の持ち主たちには見えているのだろうなと想像すると楽しい。

逆に、科学にまったく興味のない、さらに批判的な人は、無から何かが生まれることをそれほど不思議に感じないのかもしれない。この宇宙論を信じるとは思えないけれど。

いずれにしても、著者が解説してくれる宇宙論をすっかり理解するなんて、普通の人には難しいだろうと思う。でも大丈夫。大事なのは、最新の宇宙論そのものではなくて、それを通して送られる二つのメッセージなのだから。

一つめは科学が蓄えてきた知識の素晴らしさである。証拠が示すところをどこまでも突き進み、理論を正誤両方の立場から証明し、最後は実験事実によって判定する。このような精神が生み出す理論と実験観測が天体の動きを、宇宙の成り立ちを、ビッグバン理論を、さらにはインフレーション理論を、ついには無から生じる宇宙を手に入れ、人類をここまで導いた。この営みを賞賛し誇りに思わずにはいられないよね、ということ。

二つめは、神(造物主)の存在は必要ないということ。神と科学とは、特に宇宙や生命の捉え方において過去延々と対立してきたし、これからも対立するだろう。宗教は人間にとって大事なものかもしれない。宗教(一神教)を信じさせるためには、その土台である神に絶対的な力を与える必要があり、よって神がすべてを創ったことにしなくてはならない。宇宙も人間も。残念なことに、物理学や生物学は宇宙や生命がどうして誕生したかを科学的に説明することができなかったから槍玉にあげられてきた(宗教は何も説明しないのだが科学より以前からあるので既得権を持っている)。ところが物理学は「宇宙が無から生じる」ところまで行き着いたのだ。すごいねえ。だからと言って神学者が降参するはずはないけれど。宇宙創成に神は不要、それが本書が発する強烈なメッセージだ。

科学の素晴らしさに改めて敬服する一冊。たまりません。それにしても青木薫訳にはハズレがないよな。

 - 自然科学・応用科学, 読書