受験の数学に疲れたら『数学入門』を読んでみる
2022/04/16
受験の数学って難しいね。
先日、息子がわからんといって持ってきた模試の問題を解いてみた。三角柱を曲面で切り取った体積を求める問題。面積を変数で表して積分すればええやん、というだけのことなのだが、実際に計算しだすとまあ面倒で厄介なのである。受験なんてなんせ昔のことだから、公式も勘所もすっ飛んでいて、答えが出る手前で投げ出した。こんな問題を解いていたころもあったんだよなあ、と思うと懐かしくもあったのだが。
入試問題は志願者を選抜するためのものだから、ややもすると小意地の悪い難問で、受験者がつまづくのを待ち構えている、というようなことを、数学者で教育者の遠山啓は『数学入門』の中で述べている。これに苦しめられた人は、数学が小意地の悪い学問だと思い込んでしまう、それは間違いだ、と。1960年のことである。最近の入試問題はそれなりの意図を持って練に練られた問題だろうから、そこまでひどくはないとぼくは思うけれど、一筋縄ではいかないのは確かだろう。
遠山によれば「数学の本当の姿は素直でのびのびしたもの」なのである。
しかも、そのように素直な数学こそが実際の役に立つことを強調したいのである。人間のつくった問題はひねくれているが、自然のつくった問題はもっと単純でのびやかな姿をしているからである。
受験勉強のかたわらで『数学入門』を読んだなら、こわばった頭がほぐれるというか、数学の素顔を垣間見れる。そしてそれまでとは違った力が身につくだろう。受験を通り過ぎていてももちろん一向にかまわない。
タイトルには「入門」とあるが、軽い本、甘い本では到底ない。代数、幾何、解析が満遍なく扱われていて、高校数学としては充分なレベルだ。デカルトが連続量を直線の長さで表したことに始まり、最後は微分方程式、ケプラーの二つの法則からニュートンの万有引力の法則を導くところまで行くからね。この先には、同じ著者の『無限と連続』が控えている。
語り口はとても流暢で、数学の歴史や絶妙なたとえ話を挟みながら進んでいくから、クイクイ読み進めてしまう。ぼくは何度も繰り返し読んだけど、その度に新たに気付かされることが出てくる。
マイナス1を掛けることは180度回転させること、よって虚数単位iを掛けることは90度回転させること、というのもよくわかる。コーシーの収束条件も懇切丁寧に解説されていて、なるほどと腑に落ちる。
ちょっと読み方を変えると、たとえばクラメルの公式、オイラーの公式が導かれていて、絡まった長い式の項がバッサバッサと消えてシンプルな式が現れるところなんざ、まるで落ち物ゲームの大量コンボのようで、しかしそれとは比較にならない爽快さだ。
本書レベルの数学を、それも素直でのびのびした数学を身につけてもらうことが遠山の願いであった。