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僕にはこれが、特別な時間なのだ 『チルドレン』

      2017/09/16

チルドレン
伊坂幸太郎
講談社文庫
チルドレン (講談社文庫)
先ほど文庫化された伊坂幸太郎の『チルドレン/伊坂幸太郎/講談社文庫』は、短編集だけどちゃんと長編になっているという物語。
家裁調査官の陣内と盲目の永瀬とを中心とした、なんとも優しいストーリーが次々と繰り出される。一話ごとに時間と視点(話者)がくるくる変化するが、なんら違和感を感じることなく、各話が絶妙に配置されている。当然、その滑らかさは伊坂の計算しつくされた目論見であって、それがきっちりと成功している。各話は軽いミステリ仕立てになっているものの、それらはどちらといえばありふれた、容易に先がよめる謎だ。だからこそ読者はミステリ(謎)に邪魔されることなく、物語が含んでいる優しさを堪能することができる。
読後感はいたって心地よい。本書の最後の一節が、あたかもその気持ちを代弁してくれているかのようだ。

歴史に残るような特別さはまるでなかったけれど、僕にはこれが、特別な時間なのだ、と分かった。この特別ができるだけ長くつつけばいいな、と思う。甘いかな。

そう、伊坂作品を読みふけっている間は、ささやかだけれど特別な時間に思えるのだ。心地よさという意味では、これまでに読んだ伊坂作品の中で本書が一番好きかもしれない。

こちらもいかが 伊坂幸太郎の本

  • ギャングの日常は、どう見たって非日常 『陽気なギャングの日常と襲撃』
  • 微妙な嘘は、ほとんど誤りに近い 『死神の精度』
  • 死んでるようには生きたくない 『グラスホッパー』
  • 手放してはいけないものがある 『ラッシュライフ』
  • 僕にはこれが、特別な時間なのだ 『チルドレン』
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 - 小説, 読書