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単時点的な意味で 『タイタンの妖女』

      2017/09/16

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262) 壮大な物語を読んでいる最中、頭がクラクラした。ありえない世界があたかも実在しているように感じられる語りのうまさ。うーん、『タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア/ハヤカワ文庫』にはまいった。

すべての時空にあまねく存在し、全能者となった彼は人類救済に乗り出す。だがそのために操られた大富豪コンスタントの運命は悲惨だった。富を失い、記憶を奪われ、太陽系を星から星へと流浪する破目になるのだ! 機知に富んだウィットを駆使して、心優しきニヒリストが人類の究極の運命に果敢に挑戦した傑作!
―― hayakawa online より

コンスタントの、ラムファードの、ビアトリスのそしてサロの壮絶な人生を差し出されて、「おれは何を考えればよいのだろう」と戸惑うばかり。そして登場物の一つ一つが何かを示唆しているのではと考え出すときりがない。火星陸軍は現存する軍隊なのか、水星の洞窟に棲む生物は、トラルファマドール星の生物(機械)は人間なのか。
散りばめられた名言のうち、お気に入りを一つだけ。

「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」と彼女はいった。「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」

シニカルな物語の末に辿り着いたにもかかわらず、エンディングに至って目頭が熱くなる。

「おれたち――、おれたちはほんとうに天国に行くのかね?」とコンスタントはいった。「おれが――、このおれが天国に行けるのか?」
「おれにそのわけを聞くんじゃないぜ、相棒」とストーニイはいった。「だがな、天にいるだれかさんはおまえが気にいってるんだよ」

私が言うまでもなく、ヴォネガットはすごい。

こちらもいかが カート・ヴォネガットの本

  • なにかお力になれることは? 『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』

 - 小説, 読書