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時間の謎へのやるせない想い 『時間はどこで生まれるのか』

      2017/09/16

時間はどこで生まれるのか (集英社新書)文句なしにすごい!
誰しも過去から未来へ流れる時間を無意識に感じている。しかしそもそもそのような時間をなぜアプリオリに認めているのだろうか。『時間はどこで生まれるのか/橋元淳一郎/集英社新書』は私たちが感じている時間の根源を突き止めようとする著者の熱い思索だ。

  • すごい理由その1:現代物理学を土台とした哲学的なテーマにもかかわらず、極めてわかりやすく論じている。一般人に向かって語り慣れている。
  • すごい理由その2:ギッシリ詰まった知と興奮が新書で(すなわち簡易に廉価で)手に入る。
  • すごい理由その3:これが核心。以降に紹介。

本書の展開はぎりぎりまで絞り込まれているので、内容は読んでいただくに限る。が、あえて私のような素人がエッセンスを抽出すると次のようになる(はず)。

  • 量子論から導くと、ミクロの世界(例えば原子1個の世界)には時間は存在しない。
  • 相対論によれば、マクロの世界には時間はあるもののそれは単なる羅列であって、時間の流れは存在しない。
  • 熱力学、統計力学のエントロピを持出すと時間の流れが現われる。エントロピー増大の法則が時間の向きを決定するからだ

ここまでは新しい考え方ではない。エントロピーと時間とを結びつける考察はすでにある。そこで著者はさらに踏み込む。すごい理由その3はここからだ。

  • エントロピが増大するってどうして決めたの。理性的に考えればエントロピーが減少する世界だってあっていいんじゃないの。すなわち時間の流れは生じるが、向きはどうだっていいはずだ。
  • あってもよいエントロピー減少世界がないのはなぜか。私たちがアプリオリに認識する「過去→現在→未来」の流れはどこから生まれるのか。それは生命の「意思」があるからだ。生命が「意思」を持ってエントロピー増大に抗い、秩序を守ろうと努力するからだ。

結論、

「意思」をもった生命は、自分の秩序を壊そうとする外部の圧力を、どうしようもない変更不可能な過去として受け止める。しかし、その「意思」は外圧に逆らって秩序を維持する自由をもっている。すなわち、この自由こそが未来そのものである。
このようにして、主観的時間の流れが創造され、改変できない過去と自由に選択できる未来という時間もまた生じたのである。

生命の誕生こそが時間の誕生であった、生命が誕生するという奇跡が時間を生み出したということなのだ。すごい!この結論に至るまでの手に汗握る論理展開を実際に味わっていただきたい。この興奮を味わわないのは損だ。

なお、科学を追及する方は奇しくも同じ境地に辿り着くようで、『生物と無生物のあいだ』にも以下に引用した時間に関する記述がある。

機械には時間がない。原理的にはどの部分からでも作ることができ、完成した後からでも部品を抜き取ったり、交換することができる。そこには二度とやり直すことのできない一回性というものがない。機械の内部には、折りたたまれて開くことのできない時間というものがない。
生物には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度折りたたんだら二度と解くことのできないものとして生物はある。生物とはどのようなものかと問われれば、そう答えることができる。

生きていなければ時間はない。

 - 自然科学・応用科学, 読書