生態系の統一理論をめぐる冒険物語 『生き物たちは3/4が好き』
2017/09/16
生物学、生態学もこんなにもスリリングだったのだ。『生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則/ジョン・ホイット・フィールド(野中香方子訳)/化学同人』は、生物学、生態学の過去・現在・未来をコンパクトにつづった読み物。著者の腕前によって、ワクワクする生物学の一面を垣間見せてくれる。じつに面白い一冊。
本書で扱われている生物学は、マクロな生物学・生態学だ。この分野では、以下のような法則が提案されている。
- 生物の代謝率は体重の3/4乗に比例する。
- 動物の心拍数は体重の-1/4乗に比例する。
- 寿命は体重の1/4乗に比例する。
- 大動脈の断面積は体重の3/4乗に比例する。
- 木の幹の断面積もサイズの3/4乗に比例する。
- 動物も植物も、個体群密度はサイズの-3/4乗に比例する。
などなど。
どうやらこれらの法則は正しいようなのだが、なぜなのかがわからない。生物学者たちは今現在も、その解明に取り組んでいる。フィールドに出かけ、サンタフェに出向き。
さて、ワトソン&クリック以来、生物学というとどうしてもミクロな方、分子生物学が脚光を浴びがちだ。巷でブレイク中の福岡先生も分子生物学者のお一人だ。
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還元主義の路線を進み続ければそれも当然の話で、素粒子物理が物理学の本流であることと同じ。しかし還元主義的アプローチだけでは答えにたどり着かない問題も多い。上の問題はまさにそれだ。そうなるとその対極として、非線形科学の登場となるわけである。
例えば、代謝率が体重の3/4乗に比例することの有力な説明は、フラクタルを用いた血管のパッキング問題でなされている。
まず始めに、ある長さの太い血管を用意し、それを流体力学のルールに従って分岐・縮小し、最終的に毛細血管までの血管ネットワークを計算する。このとき身体全体に最も効率よく血液を運ぶことを目標とすると、毛細血管の数(代謝率に比例)は体重の3/4乗に比例するのだ。
なんともスカッとする解決。
上述の法則について、まだまだ決着がついているわけではない。法則から外れるデータはあるし、説明する理論は理論家の数だけあるという状況だ。しかしいつの日か、生物を統一的に理解できる理論を手に入れるのかもしれない。それは、非線形科学かもしれないし、さらに新しい物理概念の登場が必要なのかもしれない。