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絶妙のテーマ選択でわかりやすい!『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』

      2017/09/16

新幹線に乗り込む前に一冊仕込んでおこうと思い、目に留まった見えみえの釣りタイトルに釣られて買ったのが『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』。サクッと読めればいいやと正直あまり期待していなかったのだが、失礼、なかなか面白かった。

本書は「数学的思考」を謳う著者のケーススタディで、株式投資、サブプライムローン、年金、三つの具体的なテーマについて書かれている。この三つの選び方が私にとって絶妙なのだ。以下、どのように絶妙なのかも併せて、各テーマごとに考えたことを。

まずは株式投資。
このテーマは間口が広く、私もそこそこ関心がある。そして株式市場がある限り続く長期のテーマ。最後にあまりも正統派の結論に落ち着くところは「数学的思考」なせるわざだ。

 そもそも経済というのは、良い時もあれば悪い時も絶対にあるのです。
そして、「投資」というのは、あくまで「中長期で考えるべき」という「基本」は、スタート時点では誰もが分かっていたはずです。
……
もちろん、長期間保有し続けるのは精神的にも大変なことですが、「経済が不調な時に耐えられる人」が投資において最終的には成功し得るということを歴史が証明していると思います。

次にサブプライムローン。
このテーマは、一過性で、世の中騒いでいるけれど私は関心が無かったテーマ。台風と同じで、じっと待ってりゃそのうち通り過ぎるし、何ができるってこともない。要はしかし本書を読んで少し見方が変わった。台風だって台風情報をチェックしておくだけで安心感がつく。サブプライムの話も、この先どう動くのかを知って考えておけば気分は落ち着く。本書を読んでこの問題の成り立ちがスッキリとわかった。ポイントは、アメリカの住宅価格が下げ止まれば、状況が変わるということなのだね。

最後は年金。
これは個人的にも日本社会にとっても切実なテーマ。緊急であり継続的なテーマでもある。そして本書のタイトルになっているように、要のテーマである。
私は、年金に対して不信感を持っている。根拠は至極単純で、年金受給人口/納入人口が大きくなれば(当面は大きくなる)現役世代は耐えられんだろうということだけ。著者はそのような不信感をしきりに払拭しようとしている。「未納が増えても年金は破綻しない」という主張は確からしいように思える。現時点で「税方式」がよい政策とは言えないのもそうかもしれぬ。しかし、それと「年金は今後も安心だ」とは別だ。著者は、「年金積立金」があるから大丈夫、と言うがその数字的根拠は示していない。たった200兆円の積立金で安心できるとは思えないのだが(今の国民一人当たり200万円しかない)。ここは自分でじっくり考えるしかないだろう。私はもうよい。けれども自分の子供に向かって年金保険料を払えと言う自信はまったくない。

統計思考だの数学的思考だの、「自分の頭でよく考えろ」系の本を続けて紹介したが、あまりそちら方向へ走りすぎるのもいかがかと心配になる。

ここで100年前の名文を引用しておこう。

 山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安いところへ引き越したくなる。どこに越しても住みにくいと悟ったとき、詩が生まれて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり、向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国に行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりなお住みにくかろう。越す事ならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするがゆえに尊い。
―夏目漱石 『草枕』

「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?/細野真宏/扶桑社新書
「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)

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