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外交こそ生命線 『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 4』

      2017/09/16

『海の都の物語』もようやく後半に入った。さすがにヴェネツィアを身近に感じてきた。文庫第4巻は「第八話 宿敵トルコ」と「第九話 聖地巡礼パック旅行」との2話。

オスマン帝国、20世紀の前半まで続いたイスラムの大帝国でありながら、私にとってはとても謎めいていて好奇心を掻き立てられる国だ。本書では、ヴェネツィアが主にマホメッド(メフメット)2世の代におけるオスマン帝国と対峙する様が描かれる。ヴェネツィアは小さい国ながらも当時ヨーロッパ第一の経済大国。しかし国家規模では圧倒的に優勢な大国の横暴に翻弄されるヴェネツィアはどのような対抗策、すなわち外交政策を取るのか。

十五世紀半ばから十六世紀、十七世紀、十八世紀末の共和国滅亡まで、ヴェネツィアの外交分野には、ヴェネツィアの最高の頭脳が配されたかと思うほどだ。いかに必要であったとはいえ、その冷徹な観察力はすばらしく、彼らの報告書は、その時代の全ヨーロッパ、全地中海世界を語るうえで、絶対に欠くことのできない第一級の史料とされている。

外交といっても、当然ながら生易しいものではない。情報収集、同盟、戦争、講和工作、果ては暗殺まで、取りうる策を矢継ぎ早に講じていく。多大な被害を被りながらもなんとか活路を見出してみごとに切り抜けていく。そんなヴェネツィアの姿を読むと胸が締め付けられるようだ。自分がヴェネツィア市民だったとしたら、そんな無茶な想像をすると、もう居たたまれない。
翻って、現在のわが国の外交はどうなっているのだろうか。経済大国でありながら小国の日本は米中露とどう対峙しているのか(すでに米には敗北しているが)。自分の国の外交についての無知さ加減に愕然とする。知らないということは、安心できる理由などないということなのに。

同盟に関する女史の解説も参考になる。

現実の同盟というものは、不幸にして、互いの立場を理解し、それを尊重し合う精神があるから結ばれるのではない。第三者に対する恐怖から結ばれるものである。そうでなければ、今のところ的に回す必要がないから、ひとまず結んでおく、という程度のものでしかない。

オスマン帝国については、女史によってこの後「オスマン3部作」が書かれることになる。もう一度読み返してみようっと。

さて、残る聖地巡礼は打って変わって楽しく読める。ミラノーイェルサレム往復半年の旅、15世紀末の旅の様子がこと細かに描かれていて目に浮かぶようだ。

海の都の物語〈4〉―ヴェネツィア共和国の一千年/塩野七生/新潮文庫
海の都の物語〈4〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)

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