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未来は予測不可能 『歴史は「べき乗則」で動く』

      2017/09/16

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 / マーク・ブキャナン / ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ
歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

おー、歴史を見る目が変わった。『歴史は「べき乗則」で動く/マーク・ブキャナン(水谷淳 訳)/ハヤカワ文庫』は、これまでの歴史学とは全く視点を異にする「歴史物理学」を唱える興奮の一冊だ。

歴史物理学に入る前に、その基礎となるべき乗則、フラクタル、非平衡科学の紹介が丹念に繰り広げられる。べき乗則は両対数のグラフに表わすと線形を示す関数のことだが、本書では特に、ある物事のスケール(エネルギ、サイズ、変動、規模等々)とそれが発生する頻度とがそのような関係にある場合を対象としている。地震はエネルギが2倍になると起こる確率は1/4になる、壁にぶつけて壊れたジャガイモは重さが2倍になるごとに破片の数は約1/6になる。山火事の規模も株価の変動も。これらべき乗則から導かれる結論は、大地震や株価大暴落は予測できないということ。そして防火対策を講じるほど山火事は大きくなるということ。

このようなべき乗則が生物のサイズとその個体数との関係はべき乗則が成り立つことがよく知られている。

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それがどうやら生物の進化や絶滅にでも成立し、さらには人間社会の戦争といった現象にもあてはまるようで、するとべき乗則で様々な歴史を捉えられるのではないか、という考え方が「歴史物理学」となる。

べき乗則が成り立つためには、その系が臨界状態でなければならない。平衡状態と平衡状態との境目、どうころぶかわからないあいまいな状態だ。系を臨界状態に置くためには微妙な調節が必要なのだが、勝手にそんな状態に達してしまうことを「自己組織的臨界状態」と呼ぶ。ブキャナンの説く歴史物理学が成立するためには、歴史が自己組織的臨界状態でなければならず、この点が今後の議論になりそう。

さて、歴史物理学によれば、恐竜などの大量絶滅、先の大戦などの大戦争は、いつ起こるかはわからいけれど、いつ起こってもおかしくないことになる。ここに至って、冒頭述べたように歴史の見方が一変してしまうのだ。歴史を考える際、原因と結果という厳密な概念は関係ない。そして歴史物理学から導かれる衝撃的な結論を、少々長くなるが最後に引用しておく。

もし世界の社会的、政治的構造が本当にそのように形作られているとしたら、我々はいつか、予想もしないことに直面すると考えておかなければならない。我々は現在、比較的平和な時代に生きている。この平穏は今後一世紀にわたって続くかもしれないし、あるいは五年以内に次の世界大戦が起こるかもしれない。それは誰にも分からない。この国は、五〇〇年間存在しつづけるかもしれないし、三〇年で崩壊するかもしれない。もし世界が臨界状態にあるとしても、我々は局所的な原因なら調べることができるし、それぞれの場所で政治的、社会的な力がどのように歴史を変化させるのかを理解することならできる。しかし、すべての最終的な結果が、世界をつかむ「不安定性という手」を生み出す詳細な出来事の連鎖に左右されるとしたら、未来を見据えるのはほとんど不可能になる。

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