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『骨の祭壇』 超一級のページターナー、ではある

      2017/09/16

骨の祭壇 / フィリップ・カー(池田真紀子 訳) / 新潮文庫
骨の祭壇(上) (新潮文庫)骨の祭壇(下) (新潮文庫)

ことの発端は杉江松恋さんによるWEB本の雑誌のこの記事だ。

読み出したら止まらない『骨の祭壇』がすごい!

一部だけ引用させていただく。

これまで本に関する誇大広告で辛い思いをされてきたのね(黒柳徹子の声で)。よく判る。私も同様の経験を数多く積み重ねてきたからだ。大袈裟な煽りはもう信用しないよ、という読者の心の叫び、本当に気持ちはよく判る。
しかし、もしあなたがもう一度だけ出版社に騙されてもいい、という寛容な心をお持ちだとしたら、この『骨の祭壇』だけは試してみるべきだ。
上下巻で800ページ弱、決して短くはない。だが、呆れるほどに速く読めてしまえる。驚異のページターナーなのである。

そうまで言われちゃ読まないわけにはいかない。寛容な心を持っているぼくとしては、騙されてみようかしらん、となるわけで。

早速読んでみた。
オー、本当だ、捲る手が止まらない。「驚異のページターナー」であることは間違いない。その技巧はさすがである。追いつめられて九死に一生を得た、と思ったら、次の敵が後ろに忍び寄っている(二人が何度殺されかけたかはもう忘れちまった)。危険、冒険の数珠つなぎなのだ。そしてあれよあれよのスピード感。

謎の人物、組織が入り乱れる中、カッコイイ女とカッコイイ男が幾度も殺されそうになりながら究極の秘密目指して突っ走るというお話。女は、銃を突きつけられても、目玉をくり抜かれそうになっても、その後すぐに元気になって駆け出していく。底知れぬ図太さ。男も不死身。世界各地に豊富なアングラエキスパートの知り合いがいて、金でも情報でも偽造パスポートでも武器でも、なんでも調達できちゃう。12か国語をネイティブなみに操れたりもする。要するにスーパーマン。

繰り返す。読みだしたら止まらないジェットコースター小説。それはそれで参ったと言うしかない。

しかしなのだ。読み終え、フーーッとため息をついたとたん何も残らなかった。見事なまでに何の感動もなかった。娯楽小説なんてそんなのもでしょと言ってしまえばそれまでだが、心に残る娯楽小説は確かにあるよね、けっこうあるよね、と言いたい。でも何もないんだよ、ここには。

冒険ハーレクイーンロマンスというカテゴリに分類したい作品。そして、ページをめくらせることと感動させることとはまったく別の技術なのだということが判明した一冊。覚悟して読まれたし。

 - 小説, 読書