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COURRiER Japon NOVENBER 2009

      2022/03/27

COURRiER Japon NOVENBER 2009編集長直々にいただいたCOURRiER Japon 11月号のメイン特集は「森と地球の未来 サステナブルな文明へ」、これは実に考え抜かれたタイトルだ。地球環境問題の特集なのだが、ここでのキーワードは「サステナブル」「文明」であり、陳腐な「エコ」の文字はない。なぜか?このタイトルを解く鍵は、責任編集者である坂本龍一氏の冒頭インタビューにある。

そもそも僕は地球が温暖化しているというデータが誤りであっても、仮にCO2が地球温暖化とまったく関係ないとしても、人類は低炭素社会に移行すべきだと思っています。

編集部のメッセージも同様だ。

排出権や削減目標値などCO2の問題ばかりがクローズアップされがちなメディアでの環境報道が表層的なものに思え、地球規模の歴史的意識や生態系を俯瞰する視点の大切さを認識させられる。

安っぽい環境話とは一線を画す、本特集にはそんな意気込みがあり、タイトルがそれを宣言している。

実を言うと、私は、温暖化やCO2削減が錦の御旗のように扱われる最近の風潮をいささか冷やかに見ている。流布している諸説の何が真実なのかよく理解できないからだ。例えば「気候変動シミュレーション「地球の気温が4℃上がったら…」」(p34)では、温暖化により砂漠化が進むと警告しているが、この両者がすんなりとはつながらない。先日紹介した『ザ・リンク』では、前回大規模な気温上昇が起きた始新世(約5000万年前)の気候をこう説明している。

始新世は高温多湿で、地球は熱帯林や亜熱帯林で事実上、覆い尽くされていた。熱帯林は霊長類にうってつけの環境だ。

なんせ始新世はわれらが霊長類が一気に栄えた時代なのだ。
しかしこうした議論はのっけから教授に釘をさされてしまったので、一先ず冷静に、文明を意識して記事を読んで行こう。

編集方針からわかるように、本特集では諸産業におけるCO2排出に関する記述はほとんどない。その代わりに取り上げられるテーマは「森」「食料」「エネルギー」だ。

森林保護は急速な環境変化を抑制するための効果的な手段の一つだろう。各国政府も国連も乗り出している。最近のそんな取組みの一つとして、「国連主導の森林保護策“REDD”ってなんだ?」(p56)では、途上国が森林を保護することに対して対価・報酬を支払うシステム(REDD)を冷静に解説している。

REDDがきちんと効果を上げるためには、熱帯雨林を保有する諸国に有能で責任ある統治能力が必要である。しかしこうした国々ではすでに、森林保護が巨大な金脈を生むかもしれないという可能性が大きな波紋をもたらしている。

実際に森林を保護することはまだまだ困難なようだ。経済発展か自然保護かの二律背反をどう解決するか、金が絡んだとたん、良策は簡単には見つかりそうにない。

食料

私たちの食事からもCO2は排出されている。「肉1kgで自動車は250km走れる!?地球の未来は“草食系”が救う」(p48)「エコ・フードのカリスマがランチを作りにやってきた!」(p50)では環境負荷の高い食品を見直す、地元の産品を利用することが勧められている。食卓から環境維持に貢献する。意識を変えるだけで取組める身近な行動だけに重要なテーマだ。

エネルギー

風力発電、太陽熱コンロといったサステナブルなエネルギー活用は、環境問題のみならず石油依存からの脱却の観点から一層の推進が必要だろう。ちなみに、あのアメリカがすでに風力発電能力世界第1位であり、中国は第4位となっている。彼らにとっては明らかに環境問題ではなく石油問題なのだ。

最後に、本特集の中で「すでに20億人が定員オーバー!?人口増こそ最大の環境問題だ」(p46)は私たちにとって強烈なメッセージだ。80億人の人類が生存していること自体が異常事態なのだという。この問題について環境学者は目をつぶり、口を閉ざしているという。それもそうだろう。こうなってくると人類文明そのものを問い質さなければないのだから。

今回の特集は、損得の経済学ではない、ましてやカルト的な環境保護ヒステリーではない、次の文明の在り方を考える入り口として貴重だ。

(本誌はレビュープラスさん、講談社さんより献本いただきました)

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