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ねえお母さん―まだ、おわかりにならないの? 『夜の来訪者』

      2017/09/16

夜の来訪者 (岩波文庫 赤 294-1) 岩波文庫からこんなサスペンス小説(戯曲)が出されているとは、『夜の来訪者/プリーストリー/岩波文庫』は拾いモンの一冊だった。
時は1912年、イギリスの裕福な工場主一家の団欒から話が始まる。集まっているのは主人、夫人、息子、娘とその婚約者の5人。楽しげな会食中、新任の警部が突然訪ねて来る。先ほど若い娘が自殺し、その原因をはっきりさせたいので事情聴取をしたいという。最初は誰もがそんな女に心当たりがないと否定する。しかし警部が一人ずつに女の写真を見せ話をすると、全員が次々と動揺し、その女との関わりを認め始める。なぜ娘は自殺したのか、その自殺に一家の面々はどう関わっていたのか……。

さて、岩波としては、本書をエンタテイメントとして出版したつもりはなく、著者プリーストリーの社会主義的スタンスを提供するのが目的のはず。本来なら当時の社会の階級階層問題とか理想的な社会のあり様を読み取って欲しいのだろう。でもそんなの関係ない、とサスペンスだけを取り出しても充分楽しめる。短い作品ゆえに謎と謎解きとが凝縮していて、無駄な描写が一切ないから余計に盛り上がる。

 - 小説, 読書