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ダウン症の子どもを持つお父さん、お母さんへ(小学校入学から二十歳までの成長エッセイ)

      2017/09/28

わが家の長男はダウン症です。早いもので、誕生して20年が経ちました。

以前、大分にいたこともあって、大分県ダウン症連絡協議会(ひまわり会)にたいへんお世話になっています。 その縁で、これまで5回、『会報ひまわり』に寄稿させていただきました。その原稿をここにまとめました。

彼が小学校入学から二十歳までの、ときどきに感じたことを綴っただけの拙い文章です。もし少しでも、なにかのお役に立てば、それほどうれしいことはありません。

育つ様子を見る楽しみ ―小学1年生―

何の気まぐれか、去年からガーデニングらしきことを始めた。土をほじくり返して苗を植えるだけなのだけれど、生まれてこのかた園芸など興味のかけらもなかった私が、長年野放しだった「裏庭」を少しは居心地良い「バックヤードガーデン」にしようと思い立ったのだから不思議である。1年経って、去年植えた木や宿根草が一回り大きく成長し、きれいな花をつけた。

愛読している参考書には「草花たちを育てていて、いつも思うことがある。それはちっぽけなたねが、芽を出して成長して、やがて花咲かせる喜びを、ずっと味わえるということ」、と書かれている。当にそのとおりで、春になって新芽が出たり蕾が膨らんできたりすると理屈抜きで顔がほころぶ。ただ無精者の私にとっては、「草花を育てている」のではなくて「草花が育っている」のであって、上の文は少し書き直さないといけない。いずれにしても育つということは生物の特権で、育つ姿を見ることは自分が育つことの次に感動的だと思う。

草花と同じにしてはちょっとかわいそうだが、昌太も着実に「育っている」。いつの間にやら、彼もとうとう小学生になり(生まれてから6.5年経ったということ)、彼が生まれた頃には想像すらできなかったほど成長した。家から小学校まで約2kmの長い距離をがんばって歩いて通っているし、だいぶひらがなが書けるようになったし、数もかぞえられるようになった。夜寝る以外は何でも自分でしたがるし、それにもまして、自分の思っていることを一生懸命話しかけてくれるのがうれしい。それもこれも彼が健康でいてくれたお陰だ。

学校に行き出せばいろいろ問題もあろうと構えてはいるが、先生や友達にかわいがってもらえることだけを願っている。大層なことではない、「あいつ、なんかおもろいやっちゃな」くらいの線で行ってもらいたいものだ。

昌太が育つ姿を改めて見直しながら、来年用の二年草の種蒔きをした。

もう区別はしない ―小学3年生―

前回「ひまわり」に拙文を載せていただいたのが2003年6月、小学校でうまくやっていけるかなと心配していた頃である。そんな心配を他所に、彼は機嫌よく学校に通い、3年生という中堅所となった。

この2年間で彼が出来るようになったなあと目に付くことといえば、

  • 片道2kmを一人で通学できるようになりました、
  • 50m泳げるようになりました、(これはすごい!私が50m泳げるようになったのは6年生の頃だ)
  • 箸の使い方が上手になりました、(食事中の口周りのよごれも少なくなりました)
  • 漢字をだいぶ覚えました、(象形文字から漢字になりました)
  • パジャマの大きなボタンなら留められるようになりました、
  • 弟に指示、命令、注意するようになりました、(親に対してもします)
  • たくさん質問するようになりました、(くじらはなぜ潮を噴くの、こおろぎはなぜ鳴くの、太陽はなぜ沈むの、月はなぜ雲に隠れるの、夕焼けはなぜ赤いの、などの繰り返しではあるが)

親馬鹿だが、彼はとてもよくがんばっていると思う。ふと気づくと昌太がダウン症だというのを忘れていることがある。もともと、体調などには注意を払うが、特別な育て方はしないと決めていたので、親孝行な息子だと感謝している。とは言え、やはり弟とは区別してしまうこともあり、先ほどの質問に対する答え方などは失礼なことが多い。

例えば、「太陽はなぜ沈むの」に対し、弟には「地球が自転しているからだ」と答えるが、昌太には「太陽もおうちに帰って寝るんだね」と答えてしまう。「夕焼けはなぜ赤いの」に至っては、「空気中の光の伝わりやすさが色ごとに違うからだ」と「お別れの挨拶だね」との差になる。

子供の質問にはなるべく正確に答えようとしているのだが、「これは無理だな」とこちらが勝手に決め付けているのである。とても失礼な親だと反省している。その他諸々昌太の成長にもっと真面目に付き合うべきころになったと思う。

2005年5月

おかげさまで中学生 ー中学生―

小学校卒業、引越と、環境がめまぐるしく変わり、ついに昌太は中学生になりました。ポケモンでいうなら進化です。これも大分での12年間、みなさんに助けていただいたおかげと心より感謝しています。

4月から、昌太は千葉県の君津市立周西(すさい)中学校に通っています。ここの制服は詰襟ではなくブレザーで、毎日ネクタイをしめて通学しています。なかなか様になっていて、ノーネクタイでダラッと通勤している父親より立派です。まあ、こんな姿になるとは、昔は想像もできなかったわけで、お兄さんらしくなってくるものだなあと感慨深いものがあります。中学生ともなると先生方もそうそう甘やかしてくれるはずもなく、忙しい毎日 を送っているようですが、端から見れば昌太は彼らしく元気にやっています。親として、彼の楽しそうな顔に勝るものはありません。

ついでながら、紙面を拝借して家族の近況を少々。弟も新しい生活にスムーズに入っていけたようで、友達もでき機嫌よく学校に通っています。こちらに来て剣道を始めました。彼にとってみれば、引越しは気分一新というよい面もあったかもしれません。人生、ローリングストーンの例えもありますし。
女房は、みなさんはじめ大分の方々と別れるの がたいそう辛く4月は泣きそうでしたが、少しは落ち着いてきたようです。「トキハがない」と機嫌悪いのは相変わらずですが。

最後になりましたが、 ひまわり会会員のみなさんが益々ご活躍されますよう、遠くからではありますがお祈りいたしております。

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平成21年 初夏

スイマー ―高校生―

皆さんお元気ですか。ご無沙汰しています。今回、3年ぶりの報告となります。 大分を離れて4年目に突入。友達にも恵まれ、無事中学校を卒業。昌太はこの4 月、高校生となりました(そうか、いつのまにか15歳になっていたんだな)。バス通学で、近くのバス停まで毎朝連れ立って出かけています。そこで先にバスに 乗る私を見送ってくれて、あとは自力通学。学校では、自ら選んで園芸を実習しているようです。

ちょうど今日(5月27日)、「千葉県障害者スポーツ大会」の水泳競技に参加してきました。50m背泳ぎ。スタート、ターン、ゴールと心配所満載でしたが、快調に泳ぎきることができ、金メダルをゲット。写真はレース後の得意げな顔です。スイミングスクールに通いだしてもう10年目、一丁前のスイマーですね。もう私はかないません。「オリンピックに出たい」が口癖なので、目指すはリオデジャネイロ、ってところでしょう か。タイムをあと10秒は縮めんといかんな。ハハハ。

さて、話は変わりますが、最近彼が非常に難しい質問をしてくるようになって 困ってきました。ちょっと前までなら、「お父さん、お母さんのこと好き?」という程度で、「ハイハイ、好き好き」とサラッと流しておけば済んだわけです。しかし最近困るのが、「ぼくは将来どうやって生きていこうか」なる質問です。真面目に訊いてくる。これは難しい。私はまだ答えを持ち合わせていないし、適当に答えるわけにもいかない。これまで放ったらかしてきた付けが回って来たようで、そろそろ本気で考えなければならない時期がきたようです。

最後になりましたが、 ひまわり会会員のみなさんのご健勝をお祈りいたします。

shota1205

平成24年 初夏、上総にて

二十歳、目指すはシックスパック ―社会人―

ひまわりの皆さん、僕は20才になりました。水泳やトレーニングを行いシックスパックにあこがれています。仕事も頑張って雨の日暑い日、寒い日も歩いてパン屋に通ってます。販売やクッキー、パンの袋詰めをしたりして働いてます。祝日もあり月〜金曜日は仕事頑張ってます。 (Shota)

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そうか、20年か。どうりでこっちも歳をとるはずだ、とつくづく思うこのごろです。誕生したときはどうなることかと悲嘆にくれたときもありますが、本人の努力、周りの人にも恵まれて立派に大人になりました。 本人の現状報告(↑)で充分なのですが、せっかくの紙面をいただいたので少しだけ付け加えさせていただきます。

学校を卒業してから、就労継続支援B型事業所にお世話になっています。パン・お菓子作り、市役所や福祉センターでの販売、喫茶店の手伝いが仕事。毎日元気に通っていて、たまに「今日は販売で疲れた」とか得意げに語っています。

そんな仕事も含めて、傍から見ていると楽しそうにやっていてなによりです。 水泳は小学生から続けているのですが、最近のブームは筋トレと戦国武将。iPad片手に情報集めが忙しい。筋トレなんかは毎日、課題とメニュー、実行したこと、反省点、体脂肪率(気にしている)をノートに記録する凝りよう。目指すはシックスパック(割れた腹筋)なのであります。

そんな彼を見ていて、「こいつには敵わんな」と思うことが多々あります。いくつか挙げておきましょう。

  • いつも楽しそうである。
  • 愛嬌がある、人懐っこい。
  • こつこつ地道に努力を続ける。
  • きれいに個人メドレーが泳げる。

などなど。どれも私には到底真似できない。爪の垢でも、ってやつです。 本人にはいろいろ悩みもあるかもしれませんが、今の調子で暮らしていってほしいな、それが親の願いです。

shota1701

2017年3月 上総にて

 - ダウン症