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探検家カールさん (掌編#3)

      2016/06/24

カールさんは探検家。これまで世界中のジャングルやどうくつを探検して、珍しい生き物を見つけてきました。今日からは南の海に浮かぶ小さな島のジャングルに挑戦です。
海をわたる船の上から目指す島が見えてきました。カールさんは胸がワクワク。
「さあて、今回はどんな動物や草花に会えるかな」

ようやく島の岸についたカールさんの鼻息が荒くなってきました。
「この島にやってきたのは、ぼくがはじめてにちがいない。さあ行くぞ!」
葉をかきわけ、いよいよカールさんはジャングルに足を踏み入れました。地面にはいつくばったかとおもうと、次は木によじ登ったり。こうするとたくさんの生き物たちにお目にかかれるのです。おやっ、カールさんがめずらしいクモを見つけたようです。
「おーっ、なんて尻の大きいクモだ。どんどん糸を出すぞ。シリデカグモと名付けよう」
キャンプをはって、さらに探検は続きます。しばらく歩くと、ピカピカと輝くムカデが足をはい上がってきました。つまもうとしてもツルッと滑ってなかなかつまめません。
「ははは、こいつは面白い。これはツルツルムカデにしよう」
いいにおいのピンクの花も見つけました。でもこの花、さわったとたんにおいが変わりました。さっきまでのいい香りはどこへやら。
「うへーっ、こりゃたまらん」
夢中で進んできたカールさん、いつのまにかジャングルをぬけて反対の海岸に出たようです。そしてカールさんは目の前に広がった光景を見てびっくりしました。なんとブルドーザーが海岸を動き回っているのです。
「なーんだ、ぼくが一番乗りじゃなかった」
ブルドーザーに駆け寄ったカールさんが、がっかりして運転手にたずねました。
「こんなところで何をしてるんですか?」
「見りゃわかるだろう。地面をならしているんだろうが」
運転手はブルドーザーを止めずに答えます。
「どうして?」
「ここにでっかいホテルをおっ立てるんだとさ。森を半分切り開いてな」
森を切り開く?
「そんなことしたらジャングルがつぶれて、生き物たちがすめなくなりますよ」
「そんなの知ったこっちゃないね。おれは工事をするように命令されているだけさ」
とりつくしまもありません。急にブルドーザーが止まって運転手が身を乗り出しました。
「それよりあんたこそ誰なんだ。ここは立ち入り禁止だぜ。とっとと出ていきな!」
プンプン腹を立てながら、カールさんはジャングルの中へと引き上げました。
「このままじゃジャングルが台無しになる」
キャンプに戻ったカールさん、腕を組んで何とか工事をやめさせる方法はないものか頭をひねります。ジャングルの仲間たちにも声をかけました。
「大変なんだ。みんなの力を貸しておくれ」
おおぜいの生き物たちが集まりました。でもみんな小さい生き物ばかりなのでどうしたものか。作戦会議は夜遅くまで続きました。
あくる朝、運転手がベッドから起き上がると、顔に何かがベトベト張り付きました。なんとベッドの周りはクモの巣だらけです。
「うへっ。口の中にクモの巣がはいった。ペッ、ペッ、ペッ」
やっとのことでクモの巣をはらって小屋の外に出た運転手は足をすべらせすってんころりん。見ると、地面にはムカデの大群がうじゃうじゃ。運転手は何度もころびながらようやくムカデから逃げ出し、一目散にブルドーザーに向かって乗りこみました。まわりに咲いているピンクの花を気にもせず。
「クソッ、いまいましいムカデめ。これで一気に始末してやる」
ブルドーザーが動いたそのときです。きょうれつな悪臭がおそってきました。キャタピラがピンクの花を踏みつけていました。その花はきのうカールさんが見つけたさわるとにおいの変わる花、その名も“スカンクバナ”!
「うー、息ができん。こんなひどい所で働いてらんねえぜ。それにこんなにくさい島にホテルを建てたって客なんて来やしねえよ」
運転手は工事を放り出し、島から逃げていきました。そんなようすを見ていたカールさんがシリデカグモ、ツルツルムカデ、スカンクバナたちに拍手をおくりました。
「みんなよくやったね」
そのご、ふみつぶされることのなくなったスカンクバナたちはジャングル中にすがすがしい香りを放ち続けました。そして今頃、カールさんは次の探検へ向かっていることでしょう。

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