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ビッグバンのその先とどうつき合うか『時間と宇宙のすべて』

      2017/09/16

時間と宇宙のすべて / アダム・フランク(水谷淳 訳) / 早川書房
時間と宇宙のすべて

宇宙論に惹かれる。130億光年向こうに何があろうと日々の生活にまったく関係ないけれど、相対性理論とか量子論とかちんぷんかんぷんだけれど、気になって仕方ない。だから『時間と宇宙のすべて』なんてタイトルを見せつけられると、飛びついちゃうのである。

本書の中で天文学者アダム・フランクは、宇宙論と人間的時間との関わり合いを長い歴史物語を通して論じていく。というのも宇宙論と時間(生活・文化と置き換えてもよい)、これらは分かちがたく関わりあってきたにもかかわらず、これまであまり意識されこなかったから。そして冒頭、著者はこの物語を書く理由を教えてくれる。

ビッグバン理論は死にかけており、その代わりになるものはまだ知られていないからだ。

エエーッ、あの叡智の頂点ビッグバン理論が死にかけているだと!どういうことなのか?そしてそれが時間とどう関係するというのか。もうこの台詞でググーッと引きこまれちゃったのである。

「宇宙的時間」と「人間的時間」とは「物質」を介して影響しあって変化してきた。時計の発明は人々が時間を共有するようにしむけ、規則的な天体運行を連想させる。蒸気機関は産業革命を巻き起こす一方で熱力学を誕生させ、宇宙の過去と未来に目を向けさせることとなった。鉄道や電信が普及すると、同時性を確立する必要に迫られ、標準時間が設定され、方や相対性理論が生み出された。
ちなみに、普段あたりまえのように自分の居場所を確認しているカーナビやスマホのGPS、そこにはなんとあのアインシュタインの相対性理論が使われている。

かように「宇宙的時間」と「人間的時間」とはずっとうまくやってきた。これまでは。これまではというのはビッグバン理論まではということ。ところが近ごろお互いの関係の雲行きがあやしくなってきた。そのビッグバン理論が死にかけているというのでのである。そしてここからが本書のクライマックス。

ビッグバン理論は人類の知性が到達した最高峰だ。なんせ宇宙がどのようにできてきたのかを解き明かしたのだから。しかしなのである。ビッグバン理論には重大な欠陥がある。ビッグバン理論で説明できるのは宇宙誕生の瞬間の10^-33秒後から137億年後の現在まで。宇宙誕生の本当のその時、時間=0は説明できないのである。要するに不完全。時間=0なんてどうでもいいじゃない、なんてのは宇宙物理学者には通用しない。この欠陥を埋めるために宇宙物理学者が何を考えているかといえば、「ひも理論」であり「ブレーンワールド」などの「多宇宙論」「高次元サイクリックモデル」である。ここまで行くと11次元だとか、絶対に私たちが触れることのできない宇宙がこの宇宙と別に存在しているとか、もう一切わけがわからなくなる。物理学ではなく形而上学の世界。こんな宇宙論では人間的時間と乖離してしまうんじゃないかと危惧を示しつつ、でもなんとか解決策を見出して、これからも上手くやっていきたいよね、と著者は締めくくっている。

壮大な宇宙論の歴史とこれから進もうとしている方向を身近に感じさせる意欲作。堪能した。サイモン・シンの『宇宙創成』も素晴らしかったが、そこには登場しない「ビッグバン理論以降」に触れることができたことが一歩前進だ。

 - 自然科学・応用科学, 読書