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『歪笑小説』は楽しみどころがわんさか

      2017/09/16

歪笑小説 / 東野圭吾 / 集英社文庫
歪笑小説 (集英社文庫)

本のタイトルからすると『怪笑』『毒笑』『黒笑』に続く第4弾になるが、今までとは少々様変わりしている。今回は“連作”短編集。灸英社書籍出版部を舞台に繰り広げられるミステリ出版業界の楽屋ネタシリーズ。シットコムですな。『黒笑』でちょっとパワーダウンしちゃったから挽回狙って趣向変えてみたよ、ってところでしょうか。外からは窺い知ることのできないこの手の出版界ネタには興味があるので大歓迎。全12編、ご自分のフィールドだけにどの作品もなんか生々しくて(文学賞の舞台裏とか小説誌の内実とか)、粒ぞろいの面白さ。本筋の笑いは当然ですが、それ以外にもいろんな楽しみ方を提供してくれるのです。
どんな楽しみ方かというと…。

笑いだけじゃない、ほろりもある

過去3作は徹底的に笑いを追求した感がありましたが、今回はそれだけじゃない。おバカな話で笑わせて笑わせて、最後にほろっとさせる。うまーい具合に味付けがされているのですな。そのさじ加減はさすがに東野圭吾。落語の人情噺のような。大阪的にいえば松竹新喜劇のようなテイスト。「小説誌」「職業小説家」は親子物、「天敵」「文学賞創設」は夫婦物としてとても素敵な作品だ。こういうの大好きだ。

モデルは誰か

数々の作家さんたちが登場する。主役格の熱海圭介、唐傘ザンゲ他、晩生の新人・大凡均一、忘れ去られた過去の人・寒川心五郎、本格ミステリ界の超大物・大川端多門、五本の指に入るベストセラー作家・赤村ミチルなどなど。特定の実在作家をモデルにしたわけじゃないだろうけど、ひょっとしてあの人のことか?と勘繰りたくなる。
熱海の作風から思い浮かぶのは大藪春彦だなとか。警察小説でベストセラーを連発している玉沢義正が大沢在昌ってのは間違いないだろう。旅情ミステリで一時代を築いた大家の深見明彦は内田康夫っぽい。作家さんの本当の姿なんて知る由もないので、勝手に想像しちゃいましょう。

是非とも読みたい作品たち

作家さんたちと同時に登場するのが著作。熱海圭介のハードボイルドもどき『撃鉄のポエム』『狼の一人旅』『銃弾と薔薇に聞いてくれ-撃鉄のポエム2』、唐傘ザンゲの不条理ミステリ『虚無僧探偵ゾフィー』『煉瓦街諜報戦術キムコ』、大凡均一の『深海魚の皮膚呼吸』、などなど挙げだしたらきりがない。どれもこれも面白そうでしかたない。読みたい。
『撃鉄のポエム』『虚無僧探偵ゾフィー』くらいは是非とも読ませてほしい。東野先生、頼むから書いてくれ!待望、熱望、烈望なのである。出たら即買いするから。

隅々までの遊び心

表紙には3冊の本が描かれている。そのタイトルはなんと上にも書いた『銃弾と薔薇に聞いてくれ』『撃鉄のポエム』『煉瓦街諜報戦術キムコ』。お見事なデザイン。ていうか、もう装丁できてるじゃん。あー、ますます読みてぇ。
また、後ろには架空作文庫のイミテーション広告もあります。唐傘ザンゲの『魔境隠密力士土俵入り』は第135回直本賞を受賞しているぞ。

以上、特にミステリファンの方はたっぷり楽しんでくださいな。

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