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理論とは「ものの見方」 『高校生からのゲーム理論』

      2017/09/16

高校生からのゲーム理論 / 松井彰彦 / ちくまプリマー新書
高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)

『高校生からのゲーム理論/松井彰彦/ちくまプリマー新書』、そのタイトルからゲーム理論の入門書と思って読み始めたら、なんとヒュームやプラトンまで登場させて哲学書の様を呈しているじゃないですか。『もっとも美しい数学』を読んで、もうちょっとゲーム理論の基礎を勉強してみたくて手に取った僕としては少々あてが外れちゃったのだが、そこは結果オーライ。良書だった。「高校生からの~」というのは「高校生ならこんなことも考えるようになって欲しい」という意味をおそらく含んでいたんだな。

上で触れたように、本書はゲーム理論の初級解説書ではなく、ゲーム理論の枠組みから社会・世間の見方を説く一冊。利得行列、展開形表現を用いて、東西冷戦、談合、国家財政、地球環境問題、いじめなど様々な事例が紹介されている。研究されつくしているチームの場合PKは確率3/5で苦手な方向へ蹴れ(それより多少下手でもかまわないから滅多にPKを蹴らない選手を選ぶべき)、とかエア・ドゥはドル箱路線に打って出るという超大国の首都を攻撃するにも似た行動を採ったが故に失敗した、などなるほどと思わせる詳しい解説もあり、バラエティに富んでいるのでとても楽しみながら読める。

僕とって新鮮だったのが、顔の見えない競争では「退出」がモノを言うのに対し、顔の見える競争では「声」がモノを言うというハーシュマンの説。の理論。
親が子供に口うるさく言うのも、おしとやかだった女性が結婚すると口うるさくなるのもこれで説明できるのだ。

このように面白おかしい話題を並べつつも、著者が本書で言いたかったことは、

お互いに人に頼り合っている社会、それを馴れ合い社会として批判するのも一法だが、お互いに人を支え合っている社会と見方を変えてみると、世界観が変わる。障害のある人もない人も、親のある人もない人も、日本人も外国人もお互いに支え合って生きている。そういうふうに思える社会の構築にゲーム理論が果たしうる役割は大きい。

ということだ。
ゲーム理論と聞くと「勝つ」「得する」「儲ける」なんて言葉がイメージされてしまうんだけれど(僕だけかな?)、著者は良く生きるための理論なんだ、人間の科学なんだってことを言いたかったんだ。「高校生からの」というのはなるほどで、高校生にこそこのことを訴えたかったんだ。

ついでながら、僕が一番感激したフレーズを是非とも引用しておきたい。

企業は従業員をリストラし、労働組合は働けない人を排除するが、国家は国民をリストラすることも排除することもできない。

ここからは勝手に思いついたこと。
有名な「囚人のジレンマ」では、ナッシュ均衡は必ずしもパレート効率的でないことがよく指摘される。これは二人が個別に取り調べられることを仮定しているために起こることだ(だから実際の取り調べでも共犯者がいた場合一人ずつ取り調べるわけだ)。二人が意思疎通できればもっと良い解があるのに均衡はそうはならない。このような条件下のゲームは非協力ゲームと呼ばれていて、盛んに研究されている。でもなんか味気ない。僕には協力ゲームの方が面白そうだ。

 - 自然科学・応用科学, 読書