『能率手帳ゴールド』ヤンピーの手触りには魔力があった
とうとう「能率手帳ゴールド」を手にした。もう小躍りしたくなるほどうれしくて仕方がない。これは、そこに至るまでにあった魔性との出会いの記録である。
「能率手帳ゴールド」は、おそらく日本一ポピュラーな手帳「能率手帳」の豪華版、プレミアム版(一般的な方は「普及版」と呼ばれている)。なにがプレミアムかというと(カッコ内は普及版)、
- 表紙にヤンピー、羊革を使用(塩化ビニル)
- 小口は金箔が巻かれている(黒の瑪瑙磨き)
- 用紙がより上質
- 5184円(1102円)
はっきり言って贅沢品なのである。すごいなあ、憧れるなあという気持ちは生じる。でも、手帳として使うだけなら普及版で充分なのだ。実際これまで長年それでやってきた。なんの問題も不満もなくやってきたし。ところが今になってゴールドが欲しくてたまらなくなった。なんでそんなことになってしまったのか。
それを説明するのは難しい。なぜなら、まったく合理的な理由ではないから。顛末はこうだ。
手帳は能率手帳を使うとぼくは決めていて、だからすでに来年、2018年のを買っている(もちろん普及版ね)。その時点で手帳準備はすでに終わっていた。で、たまたま通りかかった文具売り場の手帳コーナーで、面白半分に「ゴールド」を触ってしまった。これがことの始まりだった。触ったとたん、表紙が手に吸い付いたのである。そう、ヤンピーの得も言われぬ感触。それは指先、掌の感覚だけではなかった。どこからかこんな声が聞こえてきたのである。
「どう?もう離せないでしょ」
本当に聞こえた。
そして謎の声との闘いが始まった。
「おっとあぶない。惑わされるところやった」
「どうして?この手触り、気に入らないの?」
「気に入るとか入らんとかの問題やない。手帳に5000円も出せるかいな」
「1年間ずっと使うのよ。安いものよ」
「そんな計算には騙されへんね。普及版は1000円やで。それにもう買ってるもんね」
「毎日何度も手にするのよ。そのたびにこの感触が味わえるのよ」
その通りなのである。いちいち心が揺れ動くのである。
「はい、どうぞ」
白状する。本当は欲しかったのだ。でも奢侈品だと自分に言い聞かせてきたのだ。
「だめだめ。あかんあかん」
「さあ、どうぞ」
「ええい、しつこい!欲しい、欲しいけど買わない!」
ようやくのことで、吸い付いていた手帳を手から引きはがした。あの声が消えた。
「フゥ、あぶないところやったで」
そうしてぼくはその場を立ち去ったのである。
そんなぼくの様子を横で見ていた女房が、よほどかわいそうに思ったのだろう、プレゼントしてくれた。「能率手帳ゴールド」を手にしていた。欲しいものは欲しいと素直に言うべきだ。
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