異界を旅する [夜市]
2017/09/16
ホラーは肌に合わないたちだ。
小説や映画などは娯楽であって、娯楽は気分をスカッとしてくれるものだと小生は思っているので、なんでわざわざ“ホラー”で恐怖を感じなければならないのか、それがホラーを毛嫌いする理由だ。なのに『夜市/恒川光太郎/角川書店』を手にして、あっという間に読んでしまった。『夜市』は第12回日本ホラー小説大賞受賞作なのに。
手にした訳は、『情報考学』で橋本大也氏が絶賛していたからであり、夢中になってしまったのは、本書がホラーではなかったためだ。
本書には表題作『夜市』と『風の古道』との2作が収められている。両作には似たパターンが用いられている。現実の世界とそれに重なる異界があり、二つの世界はある場所でつながっており、ある制約の元で出入りすることができる。そして異界に住む男(『夜市』では老紳士、『風の古道』ではレン)が登場する。その男たちは、先の世界設定によってしか起こりえない、あまりにも悲しい人生を送る。
読み出すと、異界にスッと引き込まれ、男たちの悲しい人生談に捕らえられ、もう止まらない。