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《針》、お前もか 『針の眼』

      2017/09/16

針の眼 (創元推理文庫)かつて、カッコイイ男たちが闘う物語が溢れていた。ヒギンズ、マクリーン、ライアル、……。いつのまにかカッコイイ男たちは影を潜め、悩む男やサイコたち我が物顔で闊歩するるようになった。

そんなさびしい思いをしていたおじさんにとって、『針の眼/ケン・フォレット(戸田裕之訳)/創元推理文庫』の復刊は涙もの。『冒険・スパイ小説ハンドブック』では第26位にランクインしたこの作品、読み損ねていたのだ。いつしかハヤカワ文庫は絶版になり、新潮文庫が救ったとたんにまたもや絶版。そして今回三度目の東京創元社エライ!なのである。

時は先の大戦末期、連合軍は大陸進行の準備を着々と進めていた。イギリスに潜伏していたドイツのスパイの切り札《針》は、連合軍のヨーロッパ上陸地点がノルマンディであるという最高機密を手に入れる。冷酷非情な殺人を繰り返しながら機密を祖国へ持ち帰ろうとする《針》、それを阻止しようとわずかな手がかりを元に《針》を追いつめる英国情報部、MI5。追跡劇の見本とも言えるスリリングな展開。そして脱出最後の関門、Uボートとのランデブーへと物語は突き進む。もう読み出したら止まらない!

最後まで勢いで一気に読んだ。と、ここまで持ち上げてきてしまったのだが、どうしても書かずにはいられないので、あえて不満を一言。その出所は、次の二つの条件を満足させようとしたところにある(ネタバレ寸前で止めたつもり)。

  • 史実を踏まえるためには、《針》のミッションは失敗に終わらなければならない。
  • どうみても、主人公はルーシイであって、《針》ではない。

何が不満なのか。《針》が本来の超一流スパイであれば、このミッションは成功したにちがいないのである。邪魔者をとっとと**しちゃえばよいのだ。前半はそうしてたじゃない。しかし島に来てからの《針》はそうしない。最後になって「なーんだ、《針》ってフツーの男じゃん」と思わせてしまう。期待が大きかっただけに、カッコイイ男の活躍を読みたかったのに、おじさんにはなんとも歯がゆいのである。お前は祖国の運命を左右する情報を抱えているんだぞ。そんなことして楽しんでいる場合か!(いかんいかん、ついムキになってしまった)

そんなことぜんぜん気にならない方には何も問題ありません。面白冒険小説であることは間違いなし。往年の冒険小説として読む価値充分にあり。

(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)

 - 小説, 読書