センスを磨くとっかかりに 『美の構成学』
2017/09/16
デザインは身の回りにあふれている。デザイナーと呼ばれるプロなんかじゃなく、普通の人でもデザインを意識せずに生活するのは難しい。着るものしかり、家具のレイアウトもデザインだ。あらゆる商品を購入する際、選ぶ基準の大きな要因もデザインだろう。また、ビジネスマンならパワポでプレゼンは日常のことだろう。どうせならセンスのよい画面を作りたいものだ。『美の構成学―バウハウスからフラクタルまで/三井秀樹/中公新書』はそんなデザインセンスを学ぶための格好の入門書かもしれない。
タイトルにある「構成学」とは何か。それは、多様な造形デザインにおける、普遍的で本質的な要素の体系、すなわち美をつくり出す文法と捉えることができる。本書は、構成学についてその歴史と概要とがコンパクトにまとめられていて読みやすい。
1919年、ワイマール共和国に世界初のデザイン教育機関として「バウハウス」が創立された。構成学はバウハウスにおける予備課程のカリキュラムがルーツとなっている。さらにバウハウス誕生の発端は18世紀の産業革命にまで遡ることができる。このあたりの歴史がとても興味深い。さらには、構成が登場するまでの美は写実であり自然の再現であったのに対し、構成は形態や色彩を使った非再現的な方法で純粋な造形性を追求するといった対比も、教えられてなるほどと気づく。
著者は、
センスは生まれつきのもので、どうしようもないとあきらめている人もいるようだが、とんでもない。センスはつくられるのである。
と言う。そしてその手段が構成学を学ぶことだと。
本書は構成学の啓蒙書なので、これを読んだからといってたちまちセンスが身につくものではない。しかし、その歴史や全体観を一通り把握しておくことは極めて有益だと思う。
本書を手に取った動機は、フラクタルなど生物や自然の形態と数学との関係について書かれているのではとの勝手な期待だったが、残念ながら当初の思惑は少々はずれてしまった(黄金比やフィボナッチ数列については若干記述があるけれど)。でも結果オーライ。これまで触れたことのなかった構成学の成り立ちを知ることができたのだから。充実した一冊だった。中公新書は当たりが多いなあ。