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歯ぎしりして、喝采して、涙して 『ルーズヴェルト・ゲーム』

      2017/09/16

ルーズヴェルト・ゲーム愉快痛快。葛藤し、喜び、涙する。これぞ娯楽小説の醍醐味。直木賞受賞第一作となる『ルーズヴェルト・ゲーム/池井戸潤/講談社』は、企業小説と野球小説とが絶妙に絡みあった、安心して愉しめる面白本。

青島製作所野球部、かつての社会人野球の名門はどこへやら。成績は低迷し、嫌気がさした監督はエースと4番を引き連れ、後ろ足で砂をかけるように強豪チームへ去って行った。会社の経営状況の悪化とともに、廃部の噂が聞こえてくる。
一方、中堅電子部品メーカーである会社本体は、景気低迷のあおりをもろに食って会社存続の危機に立たされていた。取引先や銀行からは、発注削減、コストダウンだのリストラ計画だのとビシビシ叩かれ、攻勢をかけてくるライバル会社から経営統合の話を持ちかけられる始末。経営統合とは名ばかりで、実態は旨いところだけいただいちゃおうって魂胆。青島製作所はこの絶体絶命の状況を乗り越えられるのか。

ここで、この後物語がどう展開するのか、ちょっと想像してみて欲しい。細かいところはさておき、青島製作所とその野球部はこうなるんじゃないかなあ、って。なんとなくイメージできましたか?

では続き。この後、おそらく今あなたが想像したように物語は進みます。期待通りの展開。そんなのつまらない?いえ、それは逆、だからこそ面白い。無調や不協和音を多用する現代音楽なんかよりモーツァルトのほうが圧倒的に心地良いのと同じ。

もちろん、企業小説や野球漫画の常套パターンをあっさり出されたらしらけちゃう。それを面白く描くのが池井戸潤の巧さ。さすが。現実的なディテールを書き込み、魅力的な登場人物を造形し、読者の心をゆさぶる情緒を込め、組織とは、リーダーシップとはといったスパイスを加える。愉しい読書時間を提供するために練に練られた作品となっている。だから僕は思う存分、心ゆくまで楽しめた。『ルーズヴェルト・ゲーム』ってタイトルもいい。

繰り返しになるが、出てくる人出てくる人みんな魅力的。なかでも僕のお気に入りは笹井と神山だ。いやー、かっこいい。不覚にも僕が目をうるませてしまった二人の最高の台詞を、最後に抜き出しておく(ちょっとネタばれなのはご勘弁)。

「二回戦はどうだ」

「開発が遅れてご迷惑をおかけしました。しかし本日、試作品が完成しましたので、ご報告させていただきます」

歯ぎしりして、喝采して、涙して。物語を堪能できる好作品。自信持ってオススメ。

本書は「本が好き!」さんから頂戴しました。ありがとうございました。

 

ルーズヴェルト・ゲーム

ルーズヴェルト・ゲーム

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池井戸 潤
講談社
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 - 小説, 読書