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重たいメイン、デザートは洒脱な食紀行 『クーリエ・ジャポン3月号 2010 Vol.065』

      2017/09/16

レビュープラスさんから献本いただきました。いつもありがとうございます。

クーリエ・ジャポン3月号 2010 Vol.065国際ニュース編集誌『クーリエ・ジャポン』、今月号も特集、連載とも充実した記事が満載です。ここでは【「貧困大国」の真実】【ミシュラン覆面調査員とランチを食べてみた】【ボルドー、トゥールーズ「食べてからのお楽しみ」】を取り上げて紹介します。印象が強かった三つの記事で、堪能しました。でも一方でちょっと注文もあるのです。

「貧困大国」の真実

堤未果責任編集のメイン特集で、女史の著書をフォローする内容です。貧困・格差に悩むアメリカの姿を伝える記事。急増するフードスタンプ受給者、病気になっても治療が受けられない医療崩壊、学資ローンに苦しむ若者たち、民営化が進む刑務所ビジネス、主にアメリカのメディアから選ばれた情報だけに惨状がひしひしと伝わってきます。オバマ大統領のCHANGEは夢だったのか。我が国がお手本とするアメリカの現実に衝撃を受けざるをえません。

これとは違う意味で驚いたのはp.42の記事。

彼が怒りの矛先を向けているのは、昨今のひどい経済状況にでもなければ、学費として膨大な費用がかかったことに対してでもない。政府保証の学生ローンの金利が、6.8~8.5%と恐ろしく高いことについてだ。
「あまりにも馬鹿げています。どうして8.5%も払わなければならないんです?」
それが契約内容であり、この金利はリーが融資を受ける際に同意したものだからではないのか?
「そうは思いません」
彼は切り返した。
「政府は住宅ローン債務者に救済処置を講じた。大企業も救済した。なぜ学生には、救いの手を差し伸べないのですか」

高金利を受け入れた自分でなく、政府が助けてくれないことに腹を立てる若者の言葉。自助(self-help)という言葉はもう消えうせたのかと思われます。フードスタンプの受給を恥ずかしく思うといった言葉もありますが、貧困・格差問題とは異なる次元での怖ろしさを感じました。

さて、本特集は堤未果氏の責任編集ということで、これらの記事を読むあたり『貧困大国アメリカ』『貧困大国アメリカⅡ』に目を通しました。この2冊を手に取ったこと自体、クーリエ・ジャポンのおかげです。それらの感想についてはすでに

すぐびん|こんな単純な図式で良いのか? 『ルポ貧困大国アメリカ』
すぐびん|リベラル派の敗北 『ルポ貧困大国アメリカII』

に書いたので、ここでは要点だけを繰り返します。

  • 日本ではなかなか目にすることのなかった、アメリカの貧困層・中間層が直面している惨状を克明に伝えており、貴重なルポルタージュ。
  • 行き過ぎた市場原理主義、それを進めた主として共和党と業界との癒着にすべてを押しつける短絡的な主張には疑問を感じる。

これら2冊を受けて、クーリエジャポンに期待することは、

  • アメリカ(世界)メディアは貧困問題をどう捉えているのか。
  • 堤氏の著書がアメリカのすべてなのか、多様な意見はないのか。

を伝えてくれることでした。

1点目について、本特集はとても参考になりました。しかし2点目については充分満足するには至りませんでしたで。各記事とも市場原理主義を直接非難するものではありませんでしたが、どうしても編集にその意図が見えてしまう。貧困・格差の原因は民営化のみなのか、民営化しなければどのような状況になったと予測されるのか、といったより広い視野での記事が欲しかった。しかし堤氏の責任編集ということでやむを得ないのでしょう。限界が感じられたことが残念でなりません。

ミシュラン覆面調査員とランチを食べてみた

東京、京都・大阪版も発刊されたミシュランガイド。その謎に包まれた調査員と食事を供にしようというのですから興味津々です。オリジナルはTHE NEW YORKER。
誰もが信頼し恐れていたレストランガイド、ミシュラン。レストランを格付けする調査員はもちろん覆面。彼らは出張の連続で、身分を隠して常に食べ続け、調査書の締め切りに追われ、その上給料も高くない。美味いものを食べて好きに点数を付ける、などといった羨ましい姿とはほど遠いようです。ミシュラン自体にも、2003年以降暗黒の時代が訪れていたのですね。ミシュランの苦悩が読み取れます。

そんな中、覆面調査を行なうミシュランに対するアメリカサイドの酷評にハッとさせられました。

覆面調査員という考え方がよくわからないのです。料理を評価しているのが誰かわからなかったら、その評価を下している人の専門知識も評価できないではないですか。

なるほどそのとおり。日本店のミシュランガイド、みなさんはどう評価しますか?

ボルドー、トゥールーズ「食べてからのお楽しみ」

ドアマンが開けてくれた狭い戸をくぐると、肉の煙と香りが全身を包んだ。
目の前に古めかしい暖炉があり、串に刺された丸鶏が脂を落としながら照り輝いている。暖炉の手前には生ハムの類いや、これから焼かれる牛や豚、鴨の肉、トマトやカリフラワーといった野菜が並べられた調理台がある。豪勢ではあるけれども衒った感じがなく、17世紀フランドルの静物画を思わせる。

この素敵な導入を読んだだけでもうたまりません。カスレ(白インゲン豆を豚や鴨、羊などと煮込んだ料理)を中心に、フランス南西部のガッツリ肉食系を旨そうに紹介する食紀行です。料理解説、その歴史や蘊蓄、そこに居合わせた陽気な人々、これらが絶妙なバランスで混じり合った洒脱な名文。そして食欲をそそる美しい写真の数々。読みながらニタニタしている自分に気がつきました。実はこの記事が今月号の中で一番のお気に入りなんですね。

中身は脂滴るこってりした話なのですが、本誌の構成としてはデザートのような存在。ごちそうさまでした。

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