頭が愉快になる 『新 物理の散歩道 第1集』
2017/09/16
政治や経済に目を向けると何かと鬱陶しい今日この頃である。気分を変えて、頭が愉快になる本を読みたいなと思い、『新 物理の散歩道 第1集/ロゲルギスト/ちくま学芸文庫』を手に取った。高級チョコレートを一粒々々味わうように一章ずつ読み進めれば……、目論見どおりの正解だった。
本書は、雑誌『自然』に掲載されていた科学エッセイをまとめたもの。その名のとおり岩波の『物理の散歩道』の続編で、1974年に中央公論社から出版されたものの文庫化復刊第1弾。著者のロゲルギストは7名の東大系物理学者のグループペンネーム。日常のさまざまな不思議を物理学者の視点で思考した、品格を感じる読み物だ。
<目次>
- ロゲルギストの月例会
- 量の感覚的表現
- ミルクの糸
- 影法師のコブ
- ミリメートルの世界
- 道順の教え方
- 被服機構学序説
- 魚にまなぶ
- 自然は対称性を好む?
- シグナルと雑音
- りこうな乗客
- 骨と皮
- 入院また楽しからずや
- 紙風船の謎を解く
- ねじれた結晶を推理する
最近の物理学となると、ビッグバンやら、ヒッグス粒子やら、果ては11次元だとか言われても、もう体感、実感から遠くかけ離れて遥か彼方にある(なんで重力があるかというのはすっごく知りたいことだけど)。もちろんその片隅すら理解できるはずもなく、まぼろしの世界なのだ。
しかし、本書で取り上げられる物理には体感がある。身の回りにある不思議が題材なのだから。収録されている12編、これも立派な物理なのだ。中でも「ミルクの糸」「ミリメートルの世界」なんて私のつぼにスッポリはまった。
コンデンスミルクを垂らすと下でとぐろを巻くのはなぜか。丁寧な実験も加えながらその謎を考察しているのだ。ハチミツもとぐろを巻くぞ。グリセリンは巻かない。粘性が関与しているのではないか。ならばそれを測定してみよう。10ポアズを超えるととぐろを巻くようだ。と、実験と考察とを重ね、どんどん真相に近づいて行く。最終的にミルクが着地点で折れ曲がるのは座屈であり、とぐろを巻くのは張力のわずかな傾きだという結論に至るのだ。ちょっとした論文だ、こりゃ。
興奮しながら読み進み、読後うっとりするエッセイ集。第2集を読み始めた。第5集まであるので、当分楽しめそう。