疑似科学批判の古典 『奇妙な論理 I, II』
2017/09/16
奇妙な論理I―だまされやすさの研究、奇妙な論理II―なぜニセ科学に惹かれるのか / マーチン・ガードナー(市場泰男 訳) / ハヤカワ文庫NF
疑似科学、エセ科学、ニセ科学、トンデモ科学、いろいろな呼び方をされるこれらは、一見科学のようで科学的に正しいと認められていない、さらには科学的に否定されている方法論や信条のこと。今の日本人に身近なものでは血液型性格判断、手相占い、姓名判断などだろうか。僕はこの手の話にかなり関心がある。と言っても、これらを信じているわけではもちろんない。疑似科学がなぜこれほど流行し、なぜ多くの人が疑似科学を信じるのかにとても興味があるのだ。
僕は近代科学を「信じている」、言い換えれば、科学はもろもろの事象をかなり正確に記述していると判断しているわけだが、この信じるというのはどういうことなのか。疑似科学を信奉している人もそれを信じているわけだ。科学を信じることと疑似科学を信じることとの間には何か差があるのか。あるとすればどんな差があるのか。面白いテーマだと思っている。
そこで、まずは疑似科学の全体観を眺める取っ掛かりとして、『奇妙な論理I―だまされやすさの研究、奇妙な論理II―なぜニセ科学に惹かれるのか/マーチン・ガードナー(市場泰男 訳)/ハヤカワ文庫NF』を取り上げてみた(以前は現代教養文庫から出ていた)。原著は1952年に出版された『In the Name of Science(科学の名において)』。著者のマーティン・ガードナー氏は、アメリカの数学者、アマチュア手品師、懐疑論者で、数学を面白く解説する著作などを多く遺している。
本書の特色は、60年近くも前にいち早く疑似科学の害を主張し広めたことと、微妙に科学っぽいものから茶番まで広範囲な多数の疑似科学事例を収めていることだろう。せっかくなので、収録されている疑似科学の項目をちょっと数が多いが末尾に挙げておいた。『代替医療のトリック』が書かれる56年前に、すでにホメオパシーを糾弾している。擬似科学にはどのようなものがあるのかをまずは知るのにお誂え向きだ。
さて、本書の中でガードナー氏は、疑似科学者を奇人(クランク)と呼び、その偏執狂的傾向として5つの形を挙げている。
- 自分を天才と考える。
- 自分のなかまたちを、例外なしに無学な愚か者とみなす。
- 自分が不当に迫害され、差別待遇を受けていると信じる。
- 最も偉大な科学者や最もよく確立されている理論に攻撃を集中する強い衝動を持っている。
- 複雑な特殊用語を使って書く傾向がある。
なるほど。疑似科学の言い出しっぺとなる疑似科学者にはこのような傾向があるのかもしれない。では、疑似科学者の言うことを信じる人々にはどのような傾向があるのだろうか。僕には信者が別段特徴のない普通の人のように思えるのだが。
本書は、疑似科学とその提唱者についてはとても面白くわかりやすく書かれているのだけれども、なぜそれらを意外と多くの人々が信じてしまうのかについては、残念ながらほとんど触れられていない。
この辺については引き続き紹介してみたい。
<本書に収録されている主な疑似科学>
ヴォリヴァの平たい大地、シムズの同心球理論、ティードの裏返しの世界
ヴェリコフスキーの『衝突する世界』、ホイストンの地球の新理論、ドネリーの彗星来襲、ヘルビガーの宇宙氷理論
反ニュートン力学・反相対性理論
ゴスの『オムファロス』、プライスの『新地質学』
キリスト教的立場からの反進化論
優生学
ホメオパシー、自然療法、整骨療法
断食療法、フレッチャー主義、合食禁、反牛乳主義、菜食主義、有機農業、ハウザー・システム
オルゴン理論
ダイアネティックス
超能力・超心理学
UFO
ダウジング
生命自然発生説
ルイセンコ主義
アトランティス大陸、ムー大陸、レムリア大陸
ピラミッドパワー
パーキンズの「トラクター」、エーブラムズの「ダイナマイザー」「オッシロクラスト」、ドラウンの電波治療、ケイシーの心霊術的診断、近眼治療
男女の産み分け、強精剤と回春剤
一般意味論・心理ドラマ
骨相学、手相術、筆跡学
ユリ・ゲラー、その他超能力者