貴方が幸せにならなければ、私の行為はすべて無駄になるのですから 『容疑者Xの献身』
2017/09/16
アレレ、と湯川の変貌に驚いた。『ガリレオシリーズ』は、東野圭吾が科学ネタミステリを書こうと始めたものだと思っていたからだ。しかし、『容疑者Xの献身/東野圭吾/文春文庫』に登場する湯川は、科学者としての役割が極端に薄められている。すっかり探偵になりきっているのだ。ミステリとしての核もサイエンスからロジックへと変化している。
悪い変化だといっているのではない。むしろ私にとっては好ましい。『探偵ガリレオ』で扱われていた理科トリックはどうも中途半端で、あまり楽しめなかったから。本作はロジカルな、ミステリらしいミステリとして十二分に楽しめた。
さて、物語は、天才数学者石神の仕掛けた謎が、湯川の考察によってその恐るべき姿を露呈しながら進められる。ラスト5ページに至って至ってガツンときた。この最後のシーンを強烈なものにするために語られるそれまでの構成と描写は、さすが東野圭吾、敬服せざるを得ない。まいった。
ちなみに、本作は2006年の直木賞を受賞したが、それでも東野圭吾の最高傑作は『怪笑小説』なのだ!