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ワクワク感が伝わってくる 『科学の扉をノックする』

      2017/09/16

小川洋子さんが自然科学の先生方を訪問して科学の楽しさを綴った『科学の扉をノックする/小川洋子/集英社文庫』、小説家の手にかかると科学が文学になるって感じですね。1章の「宇宙を知ることは自分を知ること」の冒頭で魅かれちゃいました。

子供の頃、庭続きの隣に住んでいた祖父がよく、
「きれいなお月様が出ているから、外に出て見なさい」
と、誘いに来た。

で始まるおじいさんの思い出から星の話につながるのですが、これがなんともいい雰囲気を出していてすばらしいイントロダクション。科学の扉を開いてそっと足を踏み入れるたくなります。

小川さんが訪ねる分野は7つ(天文、鉱物、遺伝子、Spring-8、粘菌、遺体、スポーツトレーニング)、宇宙に思いを馳せ、足元の地球を知り、生物・生命の神秘に驚き、ミクロを覗き見る、なんとも自然界をうまく網羅した構成。

どの章も、著者の聞き方が上手なのでしょう、先生方が嬉々と語っています。どれも面白いですが、特に興味深かったのは「3章 命の源“サムシング・グレート”」と「平等に生命をいとおしむ学問“遺体科学”」かな。
遺伝子の働きを知るにつれ人智の及ばない何かの力“サムシング・グレート”があるとおっしゃる村上和雄先生の言葉は重みがあります。なんとなくわかるような気がするのですね。僕が完全な無神論者になれないのもそんなところにあります。
重大な使命を感じて、動物の遺体を集めまくる遠藤秀紀先生はとにかく熱い。信念がズンズンと伝わってきます。
理科嫌いの方でも読みやすいはず。各章とも、用語の定義からきちんと入ってくれているので、それもわかりやすさの一因かと。自然科学ってホント面白いです。おそらく一番ワクワクしたのは著者ご本人でしょう。研究室に乗り込んでいって、面白い話を専門家から直接聞けるのですから。

あえて言う必要はないかもしれませんが、科学者を美化しすぎちゃってる感はあります。今回登場した方たちが良かったんでしょう。自然科学者にもいろいろいますからね。

科学の扉をノックする/小川洋子/集英社文庫
科学の扉をノックする (集英社文庫)

 - 自然科学・応用科学, 読書