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カンブリア紀の大事件 『眼の誕生』

      2017/09/16

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く5億4300万年~5億3800年前の500万年間(地史的なタイムスケールでは瞬く間)に生物進化上の大事件が起こった。それまでプニョプニュしていた生物たちが突如として体を覆う硬い殻をまとい、バリエーション豊かな複雑な形状へと変化した。多種多様な形態をした生物が一気に登場したことから「カンブリア紀の爆発」と呼ばれている。

「カンブリア紀の爆発」を引き起こした原因、引金は何だったのか?『眼の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く/アンドリュー・パーカー(渡辺政隆、今西康子 訳)/草思社』はそんな5億4000万年前の謎を解く壮大なミステリ。といってもれっきとした科学書です。

「カンブリア紀の爆発」の謎については、これまでにもいろいろな説明がされていたのだが、これといった決定打はなかったようだ。そんな中、著者のパーカー氏は独自の、そしてとてもシンプルな仮説を打ち出した。「光スイッチ説」と称するその仮説は、この時期に「眼」を持った捕食生物(三葉虫)が登場したことで、それまで33億年もの間まずまず平穏だった生物界が突如として喰うか喰われるかの修羅場と化し、生き残りをかけた強烈な淘汰圧によって様々な変化(進化)が巻き起こったとするものだ。

本書は、化石研究、進化論、光学などの知見を融合して「光スイッチ説」を打ち出してくるのだが、この仮説にひらめいた著者の興奮がひしひしと伝わってくるとにかく熱い科学読み物なのだ。冷静で丁寧な語り口の向こうの随所に著者のドヤ顔が見えてくる。嫌味ではない。それだけ著者がこの仮説を自信持って伝えたいということだ。

だから読み進めると、「なるほど、本当にそうだったのかもね」と思えてくる。言われてみれば、光を視覚としてとらえることができるってのはスッゴイことで、超強力な武器であることは確実だ。この仮説が将来さらに確からしさを増していくのか、それとも反証されるのかはさておき、5億4000万年もの気の遠くなるような昔に起こった事件を解決できるのだという科学の力、そして著者の感性と熱意に感服した。ワクワクの科学読み物であることは間違いない。

本書から得た副産物として、地球上の生物がいかに多様なのかを改めて思い知らされた。カンブリア紀に発現した生物と同じようなものが現在でもうじょうじょいる。クラゲとかイソギンチャクとか、僕もよう知らん生き物がわんさかね。人類なんて奇妙な進化を遂げた一つの種にすぎないのだなあ。

ちなみに、本書は『世界をやりなおしても生命は生まれるか?』から辿って出会った一冊。

 - 自然科学・応用科学, 読書