デンマーク版「相棒」がなかなかいける 『特捜部Q ―檻の中の女―』
2017/09/16
特捜部Q ―檻の中の女― / ユッシ・エーズラ・オールスン(吉田奈保子 訳) / ハヤカワ・ポケット・ミステリ
昔散々お世話になったポケミス、装丁が新しくなってから初めて買ってみた『特捜部Q ―檻の中の女―/ユッシ・エーズラ・オールスン(吉田奈保子 訳)/ハヤカワ・ポケット・ミステリ』が期待以上に面白かった。
デンマーク産の警察小説です。なんでわざわざデンマークやねん、北欧ミステリブームに便乗か?とつっこみつつ読み始めたのですが、いやいや、どっぷり楽しんじゃいました。
以前抱えていた事件が悲惨な結末を迎え、やる気を喪失していた警部補のカールは、新設された部署「Q」を担当させられます。「Q」は過去の未解決事件を扱う部署、部屋は地下、署員は目下カールただ一人。要は厄介者払いです。そこで手始めに取りかかった女性議員ミレーデ・ルンゴー失踪事件の調査を進めるうちにどんどん真相へと近づいて行き、ついに……。
ミステリとサスペンスとが交互に挿入されることで緊張感高まる展開となっているのですが、この作品を面白くしているのは、何と言ってもカールの相棒アサドのキャラクターに尽きると言いきってしまいましょう。
このアサド、シリア系で、どうも素性がいわくありげな様子。ただの雑用係として「Q」にやってきたにもかかわらず、頭はいい、仕事は速くて正確、上司に命じられた以上の結果を出す、その上格闘の腕前も。そんな捉えどころのない彼の大活躍が一番の読みどころでしょう。
彼のキャラクタなくしてこの物語は成り立たたないといっても過言ではありません。作品からアサドを消してみたら、あらあら、なんともオーソドックスな警察モノになっちゃいます。だいたい、まったくやる気のなかったカールを捜査にのめり込ませたのはアサドですからね。彼がいなけりゃカールは地下でブラブラしていたのです。
一方メインのカールはといえば、自分の目の前で同僚が殺され、さらにもう一人の同僚が全身不随になった事への自責の念にかられ、女房に逃げられ息子を押し付けられと打ちのめされているのに、スケベで、捜査に邁進していきます。深刻なのやら脳天気なのやら。アサドの強烈なキャラで支えられているようです。
すでにシリーズ化され4作が出ているとのこと。本書が人気を得られれば、順次翻訳されることでしょう。僕はアサドの活躍が気になるので次作も読みたいですね。
最後に、かっこいい台詞を一つ。障碍者の妹を持つチョイ役カメラマン、ヨーナス・ヘスがカールに侮辱されて放った一言。
「どんなにクズ呼ばわりされようとも、人には尊厳というものがあるんだ。わかったか」