「大気が不安定な状態」ってどういうこと? 『図解・気象学入門』
2017/09/16
図解・気象学入門―原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図 / 古川武彦、大木勇人 / 講談社ブルーバックス)
テレビの天気予報を見ていて無性に気になる言葉があって、それはお天気キャスターなどがしばしば口にする「大気が不安定」というやつ。この言い回しがまったく意味不明なのである。不安定と言うからには安定な大気があるはずで、なんとなくドッシリしているんだろうな。とすれば不安定な大気はぐらついているに違いない。グラグラしている大気って何なんだ、どうしてぐらついているんだ。イメージ不能なのである。
高校で地学を取っていれば少しは理解できたのかもしれないが、残念ながら不履修。お天気おねえさんが平然と、サラリと言ってのけるだけに、それを理解できないのはなんとももどかしいのである。
これはちと勉強する必要があるなということで参考書を探していたら本書に行き当たった。これが大正解。なんてすばらしい本なんだ。今まで知らなくて残念。今回出会えてうれしい。今年読んだ中で一番勉強になった1冊。
本書はその名のとおり気象のいろはを解説した入門書。実によくできていて、驚くほどわかりやすい。わかるから面白い。この出来映え、著者のお二人に脱帽、
わかりやすい理由は次の3点。
まず第1に本の構成。
目次
1章 雲のしくみ
2章. 雨と雪のしくみ
3章. 気温のしくみ
4章 風のしくみ
5章 低気圧・高気圧と前線のしくみ
6章 台風のしくみ
7章 天気予報のしくみ
記述が次の章へ次の章へとつながるように工夫されている。前の章が土台となって、雲を出発点として、雨と雪→気温→風→気圧と積み重ねていくことで、梅雨とは何か、台風とは何かがわかるところまでたどり着けるようになっているのだ。
第2に、様々な現象のしくみ(メカニズム)が物理の言葉できちっと解説されていること。さらには数字で、定量的に表現されていること。雲の粒の大きさは半径0.01mmで落下速度は1cm/sだとか、大気の気温減率は6.5℃/kmだとか、気圧が1hPa低下すると海面が1cm持ち上がるだとか。原理を知ってそこに数字を当てはめてこそ、どのように雨が降るのかなどの現象が納得できるというものだ。とりわけ台風の雲の中で放出される潜熱が仕事率で4000億kWで、日本の総発電能力の約2000倍にもなるというのはすごかった。
最後に図が多用されていて、その図がとても適切なこと。本文と図が伝えるメッセージとがピタっと合っている。当たり前のようで、なかなか難しいもの。世の中、イラストにすればそれを図解だと勘違いしている書籍は多いからね。本書に載せられている図はどれもこれも見事です。
さて、はじめに戻って、「大気が不安定」というのもよーくわかりました。地表の空気の塊(気塊)が上空に昇っていったとき、鉛直方向にバランスが取れていれば安定、バランスが崩れていれば不安定というのだね。上空へ行った気塊が周囲の温度より低ければ安定、高ければ不安定。不安定になるには二つの原因があって、一つは地表の空気が湿っていて、凝集に拠る潜熱によって温度が上がること、もう一つは、上空に冷たい空気が流れこんできて普通より温度が下がっていること。なるほど、そういうことだったのか!お天気おねえさんはこんな深遠な現象を語っていたのだった。
本書を通じて日々の天気や天気予報がすごく身近に感じられるようになると思います。さらに「7章 天気予報のしくみ」では、気象庁の仕事や予報官の苦労も伝わってきてよかった。一家に一冊、文句なしのお勧め本。