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『新しいウイルス入門』 いったいウイルスとは何者なのだろう?

      2017/09/16

新しいウイルス入門 ー単なる病原体でなく生物進化の立役者? / 武村政春 / ブルーバックス
新しいウイルス入門 (ブルーバックス)

危ないあぶない。危うく騙されるところだったじゃないですか。『新しいウイルス入門』、この何の変哲もないタイトルの中に、凄まじくエキサイティングな話題が展開されていようとは。「面白い本を読みたければ地味なタイトルを探せ!」の法則だな。コンパクトな1冊にウイルスの基本はもちろん、生物学の根源を揺さぶる仮説まで詰め込んだ著者武村氏、グッジョブなのです。

ウイルスをもっと知りたくて

前に読んだ『ウイルス・プラネット』でウイルスに親しみを感じちゃったので、もう少し詳しく彼らのことを知りたくなったところ、目に止まったのが本書。これが予想を上回る大正解。

前半の1〜3章は、ウイルスがどんなもので何をしているのかの解説。ウイルスの分類方法、増殖の6つのステップ(吸着、侵入、脱殻、合成、成熟、放出)などがセントラルドグマにさかのぼって説き起こされているので、ウイルスのことをだいぶわかったような気になる。当初の目的としてはこれだけでも充分だったのだが、なんのなんの、これに続く4章以降が本書の真髄だったのである。

生物進化とウイルス

4章以降に何が書かれているというと、ウイルスと生物進化との関わりについて。中でも圧巻は第7章「ウイルスによる核形成仮説」だ。

この世に生きているすべての生物は、真正細菌、古細菌、真核生物の3つに分類される。前二者は原核細胞でできている。原核細胞は細胞内にコンパートメントを持っておらず、したがって細胞核がない。これに対して、真核生物を構成している細胞(真核細胞)にはミトコンドリアやゴルジ装置などのコンパートメントがある。その一つが遺伝子を格納し、タンパク質を形成する細胞核なのだが、この細胞核がどのようにして誕生したのかまだよくわかっていない。これまでの仮説は二つある。一つは、真正細菌と古細菌との共生の結果として、真正細菌の内部に入り込んだ古細菌が細胞核になったとする仮説。もう一つは、細胞膜が内側に陥没するようにして細胞内膜系が生じたときに、核膜も作られ、それがDNAを包みこんで細胞膜になったというもの。

ここで第3の説が登場する。
細胞核がまだなかった時代の細胞に感染し、共生関係を成立させたウイルス(DNAウイルス)の祖先が細胞核をもたらしたのではないか、という仮説だ。その根拠として、細胞核とDNAウイルスとはかなり共通点があるらしい。DNAがタンパク質にくるまれていること、自分自身ではタンパク質合成装置を持たないこと、膜で囲まれていること、DNAの末端がループ状になっていること。また、ある種のポックスウイルスが侵入した細胞内で形成する「ウイルス工場」は細胞核と見た目そっくりなんだそうだ。

もちろん、細胞核ウイルス起源説はあくまでも仮説だが、生物進化の根源に関わるだけにドキドキしてしまう。

ウイルスとの新たな関係

これまでウイルスは病原体として扱われてきた。発見の経緯から言って当然のことだし、今も病原体であることに変わりはない。ただし、生物と無生物との間をつなぐ存在であることも事実のようだ。そんな現状をまとめた著者の言葉を最後に引用しておこう。本書のタイトルに「新」が付けられた意味である。いいね。

科学者たちは、新たな思いをもって、ウイルスに相対する時代になってきたのだ。
いったいウイルスとは何者なのだろう、と。
その新たな思いが、生物の進化、そして「生物とはいったい何なのか」という疑問への解決の糸口となったうえで、今後の生物学、医学、そしてウイルス学の発展を少しでもよい方向へと向かわせてくれることを、筆者はひたすら願い、期待しているところである。

 - 自然科学・応用科学, 読書