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参考にしたい、植物の生き方 『植物はなぜ動かないのか』

      2017/09/16

バイオミメティクス、またはバイオミミクリーという技術分野がある。生体のもつ優れた機能や形状を模倣し、材料・構造開発に応用する技術だ。痛くない注射針(蚊の針)、新幹線の先端フォルム(カワセミのくちばし)、汚れにくいタイル(カタツムリの殻)、粘着テープ(ヤモリの指)、などなどすでに多くの成果がある。植物だと布の撥水加工(蓮の葉:ロータス効果)が有名だ。生物には人間が到底考えつかない優れた能力があって、どんどん学びたいところ。

lotus effect

ロータス効果

ならばそんな構造や機能を模倣するアナロジーで、生物の「生き方」も模倣できるんじゃないか。『植物はなぜ動かないのか / 稲垣栄洋 / ちくまプリマー新書』からそんなことを考えた。「植物の生き方」を見習ってみてもいいじゃないの、と。
では、植物の生き方の何を見習うのか。なぜ見習うのがいいのか。

植物のここを見習ってみる

『植物はなぜ動かないのか』は植物学の本である。ちくまプリマー新書ということもあって、植物の基本的なところがやさしく説明されている。植物に愛着がわく一冊だ。著者は植物本をすでに多く手がけているが、本書の切り口は、弱いように見えて実は強い植物という生き物の「強さとは何か」探ること。そこからわたしたちが参考にできそうなところを拾ってみる。

(1) ともに生きる:共生

植物は光合成を行なう、つまり細胞の中に葉緑体がある。この葉緑体はもともと独立した光合成する単細胞生物が、他の大きな単細胞生物に取り込まれて、共生するようになったと考えられている(細胞内共生説)。すなわち、異質なものを取り込んでグレードアップして行く。

花と昆虫とくにハチと持ちつ持たれつの関係にある。花は蜜を提供し、ハチは花粉を体中にくっつけて運ぶ。もちろん自然界の生き物は助け合うようなことはしない。花もハチも利己的に、自分の都合の良いように振る舞っているだけなのだけど、それがお互いのメリットになる。ちなみに、花にとってはチョウよりハチの方がありがたい。チョウは蜜だけ吸って花粉をあまり運ばない。

(2) 生き残れる場所を守る:ニッチ

生物の世界では、ナンバー1しか生きられないというのが鉄則である。「競争排除則」という。旧ソビエトの生態学者ゲオルギー・ガウゼが見つけたので「ガウゼの法則」とも呼ばれている。同じ場所で、同じ目的で、同じようなことをしていたら、ナンバー1しか生きられない。弱者は生きられない。
なのに多様な生物が生きているのはなぜかというと、生息する場所や役割あるいは地位、「ニッチ」をわけているからだ。ナンバー1になってニッチを守らなければ、植物(生物)は生きていけない。要はどこで勝負するか、だ。戦うとは戦う場所を選ぶこと、だ。そしてニッチは小さいほうが良い。

(3) 弱者が強者に勝つ:CSR戦略

植物にとっても、生きていくということは、とても大変なことなのだ。成功(繁栄)した植物にはそれなりの理由がある(後づけだが)。英国の生態学者ジョン・フィリップ・グライムは、植物の成功戦略を三つのタイプに分類した。CSR戦略と呼ばれる。

Cは「Competitive:コンペティティブ(競争型)」。とにかく競争に強い。ほかの植物を圧倒して成功していく、強い植物。そして強くない植物、競争に弱い植物の成功戦略が、Sタイプ、Rタイプ。

Sタイプは「Stress tolerance:ストレス・トレランス(ストレス耐性型)」。水がないとか気温が低いとかいう状態は植物にとって相当のストレスで、Cタイプは見向きもしないそんな状況を克服する。典型はサボテン。高山植物も代表的。
サボテンは他の強い植物との競争を避け、乾燥という過酷な敵と戦うことにした。トゲは葉が変化した物。葉の表面積を小さくすることで貴重な水が蒸発しにくい。トゲには、茎の温度を下げるという役割もある。トゲでだは光合成できないから、茎で光合成している。だから茎が太い。中に貴重な水を蓄えることもできる。さらに炭素をリンゴ酸などのC4化合物などに圧縮して使用するC4回路を持っている。さらにさらに、CAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)という高性能な光合成システムも持っている。

Rタイプは「Ruderal:ルデラル(撹乱適応型)」。安定な状況に生息するのをあきらめ、変化が頻繁に起こる不安定な状況に臨機応変に対応する。いわゆる雑草がこれ。
たとえばオオバコは踏まれやすい場所によく生えている。というより踏まれやすい場所を好んで生えている。オオバコは踏まれに強い構造を持っているし、踏まれることで種子を運ぶ。
たとえばヒメムカシヨモギは状況に応じて草丈を変え、さらに一年草にも年越草にもなる。
そして雑草は一般的に、条件が悪くてもなんとかして種子を生産する。条件がよければ最大限のパフォーマンスで種子を生産する。

ここで面白いのは、臨機応変に適応すると言っても、生きていく上で「変えてはいけないもの」はしっかり守っていること。ここだけはぶれることはない。だから努力の方向を間違えない。
ちなみに、雑草は踏まれたら立ち上がらない。踏まれても踏まれても立ち上がるという無駄なことにエネルギーを使うよりも、踏まれながらどうやって種子を残そうとする。変な根性論よりも、ずっと合理的である。

なぜ参考にするのか

植物が陸上に進出した時代は、およそ4億7千万年前の古生代オルドビス紀であると考えられている。植物の生き方・強さは、そこを始めとしてもおよそ5億年もの時間をかけて、進化の中で培ってきたものなのだ。5億年もの間ふるいにかけられて生き残った強さなのだ。そんな生き方が間違っているわけがない。「植物の生き方」を見習うべき理由はそこにある。

植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物の話 / 稲垣栄洋 / ちくまプリマー新書
植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)

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