ついにホーガンは神になる?『黎明の星』
2017/09/16
『揺籃の星』に続くシリーズ第2部、『黎明の星/ジェイムズ・ P・ホーガン/創元SF文庫』を読むには心したほうがよい。たいていのことは受け入れられる柔軟な頭があればとても楽しめるはずだ。
前作でヴェリコフスキー理論(聖書や神話を根拠として、わりと最近木星から飛び出した金星が地球を破壊したとする)を引っ張り出して地球をめちゃくちゃにしたホーガンが、今度は地球文明を創りなおそうとする。いや文明だけではない、この地球をそして生物をもう一度造りなおしたい。ホーガンはそう考えたようだ。
はじめに言っておくと、かなりご都合主義のところはあるが(だからこそ)ストーリーはとても面白くできている。地球再生にあたり古い文明を構築しようとする元地球人とそれを阻止する主人公キーン対決は、なかなかの冒険小説だ。
しかしなのだ、どうもすっきりしない。その理由は現在の文明(社会)はとんでもなくひどいものだという立場で書かれていることだ。現代のパラダイムを完全に否定されては少々悲しくなってくる。進化論、相対性理論、プレートテクトニクスなどの科学理論を徹底的に否定し、貨幣経済をベースとした政治社会までもを葬り去る。とにかくこの文明はどうしようもなくくだらいのだそうだ。ホーガンが言いたいことは次の一文に集約されている。
人類が、過去5千年の歴史のほぼすべてのページで汚点を残していたにもかかわらず、アテナの襲来時にあれだけの文明を築きあげていたとすれば、そうした汚点抜きなら、いったいどれだけすぐれたものを実現できる可能性をもっているのだろう?
ホーガンよ、あなたは神になろうとしているのだね。
(本書は「本が好き!」を通じて東京創元社より献本いただきました)