脳が未来を創る 『未来の記憶のつくり方』
2017/09/16
もし自分の未来をコントロールできたなら、なんだかワクワク楽しい気分になってきませんか。
例えば明日何か予定、イベントがあるとしましょう。その予定のことを考えると楽しくなる場合もあれば、憂鬱になる場合もあります。嫌だなあと思う予定が続いたりしたら、気が滅入ってしまいます。せっかく予定があるのなら、それを楽しいように考えようじゃないか。それにはどうすればよいか?その秘密を教えてくれるのが『未来の記憶のつくり方―脳をパワーアップする発想法/篠原菊紀/DOJIN選書』です。ばかみたいな、中身のないプラス思考、ポジティブ主義礼賛本ではないのでご安心を。
さて、「記憶」を二つに分類してみます。一つは過去に関する記憶。一般的に記憶と言えばこれを指し、「エピソード記憶」と呼ばれます。もう一つは未来に関する記憶で、「展望的な記憶」と名付けられています。予定や予想のことだと考えればわかりやすいですね。
この「展望的な記憶」すなわち「未来の記憶」には「気分」がくっついている場合が多いのです。はじめに書いた、楽しいとか嫌だとかいうやつです。これは生物が生きていくために必要で、せっせと獲得した能力、脳力です。危ない場所や敵と遭遇したら、もうそれらに近づきたくないと考える。おいしいものを食べられたら、またそれを食べたくなる。過去の「エピソード記憶」が書き込まれた際の情動が影響しているわけです(扁桃体と海馬の活動です)。そこで著者の主張は、「エピソード記憶」なんて動的で不確かなもので、記憶を再生するたびに再構築されるんだから、うまいく過去の記憶にアクセスすればうまい「未来の記憶」が作れますよ、ということ。
たいていの出来事に対して、よかったなあ、楽しかったなあ、と考えれば未来も楽しくなる、そうなるようにちゃんと脳は働いてくれるのです。ご機嫌な脳を、記憶を手に入れましょう。
本書は大きく分けて「未来の記憶」と「今の記憶」との二つのパーツで構成されています。上で紹介した「未来の記憶」パートがスリリングで、私にとってはこれだけで充分でした(「今の記憶」は脳トレの解説)。ただ残念なことに、「未来の記憶」の本質を解説していて最も読み応えのある第3章の冒頭で、著者は、この章がうっとうしければ読み飛ばしてください、などと書いています。そんなもったいない。第3章を省いたら、この本は脳トレの宣伝本になってしまいますよ、篠原センセ。
(本書は「本が好き!」を通じて化学同人より献本いただきました)