中島らもさんへのオマージュ的作品 『出られない五人』
2017/09/16
出られない五人―酩酊作家R・Hを巡るミステリー / 蒼井上鷹 / ノン・ノベル
ムムッ、そうか、これは中島らもさんへのオマージュだったのか!
デビュー作『九杯目には早すぎる』でちょっと気に入った蒼井上鷹。続けて手に取ったのは『出られない五人―酩酊作家R・Hを巡るミステリー/蒼井上鷹/ノン・ノベル』、氏の長編第一作である。
東京郊外のビル地下にあるバー〈ざばずば〉に集う男女5人。脳溢血で急逝した愛すべき酔いどれ作家・アール柱野を偲び、彼の馴染みの店で一晩語り明かそうという趣旨の会合だった。だが、突如身元不明の死体が目の前に転がり出たところから、5人に疑心暗鬼が生じる。殺人犯がこの中にいる!? 翌朝まで鍵をかけられ外に出られぬ密室の中、緊張感は高まっていく。しかし5人には、それぞれ、出るに出られぬ「理由」があったのだ……。ミステリ界期待の大型新人が放つ傑作長編!
[著者のことば]
登場人物たちの秘密と誤解、それにちょっとした偶然が重なって、事件はとんでもない方向へ転がっていきます。その夜、酒場〈ざばずば〉で何があったかのか。すべてを知るのは、読者(あなた)だけです。
― 祥伝社
短編ならメインの登場人物は一人だが、本作は五人(本当はもう少し多い)、さらに彼/彼女らが絡まりあっているのだから、短編より5倍以上楽しめるわけだ。事実、よく練られた構成とテンポのよさを満喫できた。
さて、読みながら、何かしら気にかかることがあってもやもやしていたのだが、読了してその正体がわかった。何がわかったかというと、本作は中島らもの『こどもの一生』と雰囲気が極めてよく似ているのである。ある理由で集まった5人。それぞれがややこしい状況を抱えている。一箇所に閉じ込められて(自ら閉じこもって)、予想外の事件が発生する。各自の思惑からどんどんはずれながら物語りは進む。酒、エロ、ギャグ、ドタバタ。両作品の間に偶然とは思えない関連性があるとするのは考えすぎだろうか。いや、中島らもさんへのリスペクトとして、この作品が練られたにちがいない。そのつながりから言えば、本書は超B級ミステリである。
もう一つ思いついたこと。物語中、アール柱野の逸話でカップ焼そばが登場するのだが、蒼井上鷹の作品ってそのカップソース焼きそばに似ている。立て続けに摂ると食傷しそうだけれど、時折、無性に欲しくなる(夜中に腹が減って、UFO食べたくなることないですか)。そして一口ほおばると、計算されつくした味付の虜となり、結構な満足感が得られる。蒼井上鷹=カップ焼そば説を提唱してしまおう。