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芯がスッポリ欠けちゃいないか 『進化する教育』

      2017/09/16

レビュープラスさんより『進化する教育 / 大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局(編集) / 日販アイ・ピー・エス』電子版を読ませていただいた。いつもありがとうございます。

とお礼を行った矢先からなんなんだが、本書から多々受けた違和感についてここでは書きたいと思う。ずいぶん前から大前氏の意見に共感してきたぼくなりの疑問、反論である。

まず、本書のエッセンスは次の3点。

  1. 21世紀には新しい教育が必要。正解のない問題に「自分で答えを探す」ための教育。キーワードは「生存力」。
  2. 身につけるべき能力は「経営・IT」「英語・コミュニケーション」「問題解決力」。
  3. BBT大学のPR。

まずは1に対して。

正解のない問題を解決していく力はもちろん必要だ。かつての、そして今の日本の教育は知識の詰め込みを偏重しているという指摘も概ね当たっているのだろう。しかしそこで大前氏は知識を与える教育を全面否定するのである。知識は人類が営々と築いてきた財産なのに、である。

氏は「教師のいうことはきくな」と言う。これにはぼくも同意だ。ただし教師の価値観に振り回されるな、という意味で。教科書のいうことはきくべきだ。

正解のない問題であろうと、それを一から解くのはバカげたことだ。人類が何千年も積み上げてきたものに、一人の人間が一朝一夕に到達できるわけがない。ニュートンもアインシュタインも巨人の肩に乗ったに過ぎない(もちろん肩に乗ることが偉業だ)。iPS細胞は山中教授の頭にひとりでに湧いてきたものではない。

次に2に対して。

「経営・IT」「英語・コミュニケーション」「問題解決力」この3つが身につけば生存力と言う。どれもあればそれにこしたことはない能力だろう。必要と言いたければ言ってもよい。それは認める。ただし、必要であってもまったく充分とは言えない。

3つのスキルを見て、皆さんはなにを思い浮かべるだろうか。ぼくは「コンサルタント」である。人の仕事にあれこれちゃちゃを入れるだけならこれだけでも良いかも知れぬ。ただぼくは信用しない。微分も力学も化学反応も知らない方の語る技術に耳は貸さない。日本の地理も歴史も文学も無知な方に外国人とコミュニケーションとって欲しくない。それなりの見栄えの良いことは語れるだろう。でも「そんな方々のいうことはきくな」なのである。

3に対して。

BBT大学とはインターネットを介して授業を行う大学である。この試みはすばらしいと思う。単に授業を配信するというのではなく、ネット上のコミュニティが形成されるよう様々なシステムが取り入れられている。世界中どこにいたって授業に参加できるから、海外を旅しながらでも受講できる。ある意味理想的な教育システムの一つだろう。

ただね、ここでも揚げ足を取って申し訳ないのだが、本書の中に書かれているように「ネットワーク環境さえあれば」授業が受けられるとのこと。ネットワーク環境は誰が作り、メンテしているのかな。「経営・IT」「英語・コミュニケーション」「問題解決力」を身につけた方が作っているのかな。

かように、本書の主張は間違いとは言えないが、教育の本質を語っているようで上辺しか見ていないように思えてしかたない。残念ながら実体が見えてこないのである。

敢えて反論ばかりしてみたが、最後にフォローを一つ。「原発ゼロを目指すなら50%節電を国家目標とすべき」の一節には大いに共感した。原発止めるならその分電気を使わないで済むような社会を作ろうじゃないかという主張。もちろん大前研一氏だから、明治時代に戻れ、などという荒唐無稽な論ではない。一部を抜書きしておく。

いま世を挙げて太陽光パネルなど「再生可能エネルギー買い取り制度」を狙った建設ブームとなっている。何年かあとに、期待したほどの稼働率にならず採算割れした設備が放棄される醜いバブルの終焉を私は透視する。不安定な発電施設に浮かれるよりも、工業国日本は省エネ技術で再び世界をリードする、という夢を見たい。

さて、省エネ技術を開発するのは誰か?

 - 社会, 読書